マリー・サレ

マリー・サレ（1709-1756）は、18世紀フランスの著名なバレエダンサーであり、女性として初めて振付家としても成功を収めた人物です。同時代に人気を博したバレエダンサー、マリー・カマルゴの好敵手として名を馳せ、特にその内面的な感情を表現する力に長けていました。彼女はまた、当時のバレエ界の慣習を破る大胆な改革者としても知られ、特に舞台衣装の刷新や、表現に重きを置いたバレエの探求は、後のバレエ史に大きな影響を与えました。

サレは旅芸人の家庭に生まれ、幼少期をイギリスで過ごしました。早くからダンスや演技の才能を示し、わずか9歳でロンドンの舞台にデビュー。兄とともにパントマイムに出演し、その才能を発揮します。その後、パリに移り、フォワール・サン＝ローランなどの劇場で経験を積む傍ら、パリ・オペラ座で高名なダンサー兼女優であったフランソワーズ・プレヴォーに師事し、専門的な訓練を受けました。1727年にオペラ座で本格的に活動を開始すると、彼女の人気は急速に上昇し、技巧派で知られたマリー・カマルゴと並び称される二大スターとなります。カマルゴが華麗なステップや身体能力を前面に出した踊りで観客を魅了したのに対し、サレはより優雅で繊細な動きと、役の内面を深く掘り下げた表現力で独自の地位を築きました。

サレの最も革新的な試みの一つが、舞台衣装の改革です。彼女は自ら振付を手がけ、作品のテーマや登場人物に合わせて衣装をデザインしました。特に有名なのは、1734年にロンドンで自身が振り付け、主役を演じたバレエ『ピグマリオン』でのことです。ギリシャ神話のピグマリオンとガラテアの物語を描いたこの作品で、サレは命を得た彫像ガラテアを演じるにあたり、当時のバレエで一般的だった重く装飾的なドレスやコルセット、かつらを一切着用せず、薄手のモスリンで作られたシンプルなチュニックとサンダル姿で舞台に立ちました。これは極めて異例なことであり、観客に大きな衝撃と感動を与えました。この大胆な衣装は、踊り手自身の身体の動きや表現に焦点を当て、物語性を重視するサレのバレエ観を象徴するものでした。この試みは、後にジャン＝ジョルジュ・ノヴェールが提唱する「バレエ・ダクシオン」における劇的な表現のための衣装改革にも影響を与えたとされています。

サレは多くの芸術家と交流がありましたが、中でも特筆すべきは、作曲家ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルとの共同作業です。二人はサレの少女時代にロンドンで出会っており、その後も交流が続きました。特に1734年には、ヘンデルが自身のオペラ『忠実な羊飼い』を改作するにあたり、サレのために新たなバレエ場面『テルプシコーレ』を作曲しました。この作品は両者にとって大きな成功を収め、ヘンデルは他にも『アリオダンテ』や『アルチーナ』といったオペラにサレが踊るための舞踊を追加しています。パリでは、モリエールとリュリによる「コメディ＝バレ」に出演し、ジャン＝フィリップ・ラモーのオペラ、例えば『優雅なインドの国々』（1735年）や『カストールとポリュックス』（1737年）の舞踊場面でも重要な役を務めました。ラモー作品での自身の振付はパリでは賛否両論あったとも言われますが、彼女の表現力は高く評価されました。

1740年、サレは一度舞台から退きましたが、5年後にダンサーとして復帰しました。最後の舞台は1753年、フォンテーヌブローでの公演でした。1756年に亡くなるまで、サレは画家モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥールやニコラ・ランクレ、詩人アレキサンダー・ポープ、ジョン・ゲイ、そしてヴォルテールといった同時代の多くの芸術家や文筆家にインスピレーションを与えました。特に、後世の偉大なバレエ改革者ジャン＝ジョルジュ・ノヴェールは、サレの自然な優雅さと表現力を称賛し、彼女こそが自身の理想とするバレエの体現者であったと述べています。マリー・サレは、単なる卓越したダンサーに留まらず、衣装や表現の革新を通じて、バレエという芸術形式の発展に重要な貢献をした先駆者として、今もなお記憶されています。

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