マルクス・アウレリウスの記念柱

マルクス・アウレリウス帝の記念柱：ローマ帝国の栄光と苦悩を刻む円柱

ローマ市中心部、キージ宮殿前のコロンナ広場にそびえ立つマルクス・アウレリウス帝の記念柱は、古代ローマの壮大な歴史と芸術を象徴する建造物です。トラヤヌスの記念柱をモデルに、マルクス・アウレリウス帝の功績を称えて建設され、現在も当時の場所に静かに佇んでいます。

建造と位置

記念柱の建設時期は、マルクス・アウレリウス帝の治世中（161年～180年）か、没後かについては諸説ありますが、発見された碑文から193年の完成が確認されています。当初は、カンプス・マルティウス（マルスの野）の北部に位置する広場の中心に建てられました。この広場は、ハドリアヌス神殿とマルクス・アウレリウス神殿（現存せず）の間にあったと推測されています。興味深いことに、皇帝の火葬が行われた場所の近くにあったとされています。

記念柱の高さは、土台を含めると約42メートルに及びました。円柱本体は約30メートル、土台は約10メートルで、さらに地下に約3メートルの基礎部分がありましたが、1589年の修復時に埋められてしまいました。円柱は、直径約3.7メートルのカッラーラ産大理石のブロック27～28個で構成され、内部には約190～200段の螺旋階段が刻まれています。この階段は、レリーフの細いスリットから光を取り込む巧みな設計となっています。

螺旋状レリーフ：マルコマンニ戦争の記録

記念柱の最大の特徴は、円柱全体を覆う螺旋状のレリーフです。166年からマルクス・アウレリウス帝の死の直前までのマルコマンニ戦争を描いた壮大な物語が、細密に表現されています。レリーフは、ローマ軍がドナウ川を渡河する場面から始まり、カルヌントゥム付近での戦闘、2度の遠征の勝利、そしてサルマタイ人との戦いを克明に描写しています。

最新の研究では、記念柱の下半分が172～173年のマルコマンニ族とクアディ族との戦い、上半分が174～175年のサルマタイ人との戦いを表現しているとされています。レリーフには、クアディ族との戦闘で、皇帝の祈りに応えて嵐がローマ軍を救ったという逸話も描かれています。この場面は、後にキリスト教徒によってキリスト教の神の奇跡として解釈されたと言われています。

芸術様式の変遷

トラヤヌスの記念柱と多くの類似点を持つ一方、レリーフの様式は大きく異なります。トラヤヌスの記念柱が冷静でバランスのとれた表現であるのに対し、マルクス・アウレリウス帝の記念柱は、人物の表情や動きが強調され、劇的で感情的な表現が特徴です。人物の頭部は不釣合いに大きく、表情がはっきりと分かります。彫刻の精巧さではトラヤヌスの記念柱に劣りますが、深い彫りを用いた陰影表現は、よりドラマチックな効果を生み出しています。

村の焼失、女性や子供の連行、男性の殺害といった残酷な場面も克明に表現されており、「未開人」たちの絶望と苦悩が、人物の表情や動きから伝わってきます。一方、皇帝は主人公として、周囲を取り仕切る様子が描かれています。この様式は、3世紀の劇的な様式の先駆けとされ、ローマ帝国の危機を予感させるものとして評価されています。

建設後と修復

現在、記念柱はキージ宮殿前の広場の中心に位置し、ローマのランドマークとして人々の注目を集めています。1589年には、教皇シクストゥス5世の命によりドメニコ・フォンターナによって修復されました。この際、当初の高さ3メートルの基礎部分が地中に埋められ、頂上には聖パウロ像が設置されました（元々はマルクス・アウレリウス帝の像があったとされています）。また、土台のレリーフの一部は削り取られ、碑文が刻まれました。

マルクス・アウレリウス帝の記念柱は、単なる記念碑ではなく、ローマ帝国の歴史、軍事、そして芸術様式の変遷を理解するための重要な手がかりを提供する、貴重な遺産です。その雄大な姿と、細密に刻まれたレリーフは、後世に語り継がれるべき、ローマ帝国の栄光と苦悩の物語を静かに語りかけています。

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