トラヤヌスの記念柱

トラヤヌスの記念柱は、ローマ皇帝トラヤヌスがダキア戦争での勝利を記念して建てられたモニュメントです。この記念柱は、元老院の依頼により、建築家ダマスカスのアポロドーロスによって建設されました。

全体的な構造

記念柱の高さは約30メートル、台座を含めると約38メートルにもなります。カッラーラ産の大理石を積み重ねて作られており、表面には螺旋状にレリーフが施されています。このレリーフは、トラヤヌス帝が勝利した2度のダキア遠征の様子を描いたものです。円柱の内部には185段の階段があり、頂上の展望台まで登ることができます。柱頭ブロックは約53.3トンと非常に重く、地上約34メートルの高さに設置されています。

当初、柱の頂上にはタカの彫像が置かれる予定でしたが、実際にはトラヤヌス帝の彫像が置かれました。しかし、この像は中世期に失われ、1587年に教皇シクストゥス5世の命により、聖ペトロの像が代わりに設置されました。

フリーズ（帯状彫刻）

円柱の表面を螺旋状に続くレリーフは、トラヤヌス帝が勝利した2度のダキア遠征を描いています。下半分が1回目の遠征、上半分が2回目の遠征の様子を表しています。レリーフの中には、勝利の女神ウィクトーリアや戦利品、ローマ軍とダキア軍の戦闘シーン、要塞の建設、皇帝の演説など、様々な場面が描かれています。これらの場面には、船員、兵士、政治家、神官など、総勢2,500人もの人物が登場しています。また、要塞や船、武器なども詳細に描かれており、当時の戦争や文化に関する貴重な情報を提供してくれます。

螺旋階段

記念柱の内部は中空になっており、台座にある入口から185段の螺旋階段を登ると、頂上の展望台に出ることができます。階段の途中には、43箇所の明かり取り用のスリットがあります。地面から頂上の像の天辺までの高さは約38.4メートルです。螺旋階段は、14段で一周する構造で、精巧な造りが特徴です。この螺旋階段の設計は、その後のローマ建築に大きな影響を与えました。

碑文

円柱の台座には、次のような碑文が刻まれています。

SENATVS·POPVLVSQVE·ROMANVS
IMP·CAESARI·DIVI·NERVAE·F·NERVAE
TRAIANO·AVG·GERM·DACICO·PONTIF
MAXIMO·TRIB·POT·XVII·IMP·VI·COS·VI·P·P
AD·DECLARANDVM·QVANTAE·ALTITVDINIS
MONS·ET·LOCVS·TANT<IS·OPER>IBVS·SIT·EGESTVS

これは、「元老院とローマ市民は、皇帝カエサル、神聖なるネルウァの子、ネルウァ・トラヤヌス・アウグストゥス・ゲルマニクス・ダキクス、最高神祇官、護民官職権17回、インペラトル歓呼6回、執政官6回、国家の父へ、どれほど高い丘と大きな場所がこの素晴らしい作品のために取り除かれたのかを知らしめるために（捧げる）。」と訳されます。

建設

記念柱の建設には、巨大なクレーンや滑車、キャプスタンなどの技術が用いられました。特に、柱頭ブロックのような重いものを高い位置まで持ち上げるためには、高度な技術が必要でした。ドラム形の大理石は、約32トンあり、柱頭は53.3トンもありました。階段は、採石所などで事前に掘られていたと考えられています。建設現場では、多数の労働者と使役動物が協力して作業を進めました。

建設の意図

記念柱は、トラヤヌス帝の軍事的栄光を称えるための記念碑として建てられました。しかし、当時はフォルム内の図書館に囲まれており、螺旋状のレリーフ全体を順に見ることは困難でした。しかし、下から垂直に見上げると、皇帝の姿が次々と目に飛び込むように設計されています。トラヤヌス帝の死後、元老院は彼の遺灰をこの記念柱の広場に埋葬することを決定しました。

型取りと複製

レリーフの石膏型は19世紀と20世紀に作られました。現在では、酸性物の汚染により、石膏型の方が本物よりも詳細が分かりやすくなっています。これらの石膏型は、ローマ文明博物館やルーマニア国立歴史博物館、ヴィクトリア&アルバート博物館などで展示されています。

影響を受けた建築物

トラヤヌスの記念柱は、その後の建築物に大きな影響を与えました。ローマでは、アントニヌス・ピウスの記念柱やマルクス・アウレリウスの記念柱が建てられ、コンスタンティノープルでは、アルカディウスの記念柱やテオドシウスの記念柱が建てられました。近代では、アストリア・コラムやヴァンドームの柱、カールス教会など、様々な建築物がこの記念柱の影響を受けています。

トラヤヌスの記念柱は、ローマ帝国の歴史と技術を象徴する重要なモニュメントであり、現在も多くの人々を魅了し続けています。

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