マルクス・テレンティウス・ウァッロ・ルクッルス

マルクス・テレンティウス・ウァッロ・ルクッルス：共和政ローマの政治家・軍人

マルクス・テレンティウス・ウァッロ・ルクッルス（紀元前116年頃 - 紀元前56年頃）は、共和政ローマ期の政治家、軍人であり、紀元前73年には執政官を務めました。彼の生涯は、ローマ社会における地位、家族関係、政治的活動、軍事的功績など、多岐にわたる側面から見ることができます。

出自と家族

ウァッロ・ルクッルスは、平民であるリキニウス氏族ルクッルス家の出身です。リキニウス氏族は、護民官や執政官を輩出した名門であり、ウァッロ・ルクッルスもその血筋を受け継いでいます。母方のメテッルス家もまた、ローマで大きな影響力を持つ家柄でした。彼はテレンティウス氏族への養子縁組により、マルクス・テレンティウス・ウァッロ・ルクッルスという名を得ました。兄ルキウス・リキニウス・ルクッルスもまた、執政官を務めた人物であり、兄弟は生涯を通じて良好な関係を維持しました。

経歴

ウァッロ・ルクッルスの初期の経歴は、紀元前101年に父が告訴され追放された事件に端を発します。成人したばかりの彼は、父の仇を討とうとしますが、失敗に終わります。その後、叔父の追放解除を求める活動にも参加しますが、これも成功しませんでした。紀元前90年代には、詩人アルキアスのパトロネスとなり、シキリア属州への旅行に同行しました。スッラの下で財務官を務めた可能性があり、内戦ではスッラの将軍としてマリウス派と戦い、勝利を収めました。

紀元前79年には上級按察官に就任し、兄と共に壮大な競技会を開催しました。紀元前76年には外国人担当法務官となり、カエサルが検察官を務めた裁判を担当しました。

執政官として

紀元前73年、ウァッロ・ルクッルスは執政官に就任し、穀物の公共調達と低所得者への値下げ販売に関する法律を制定しました。任期後には、マケドニア属州総督として赴任し、トラキアとモエシアを征服しました。黒海沿岸のギリシア人都市をローマに服従させ、その勢力を拡大しました。

紀元前71年にイタリアに戻った際には、スパルタクスの乱が勃発しており、クラッススの要請に応じて反乱鎮圧に貢献しました。ローマに帰還後、凱旋式を挙行し、ギリシア都市から持ち帰った芸術品を展示しました。

その後

凱旋式後、ウァッロ・ルクッルスは元老院で重要な地位を占め、ポントス王国の地に新しい秩序を確立するための委員会の一員に選ばれました。しかし、内戦中の活動を理由に告訴され、無罪となりました。カティリナ裁判ではキケロを支持し、キケロの追放からの帰還を支援しました。晩年は、精神疾患を患った兄の親権を引き継ぎ、その死後、トゥスクルムにあるルクッルス家の土地に埋葬しました。

評価

プルタルコスは、ウァッロ・ルクッルスを兄ルキウスに「遠くおよばなかった」と評していますが、キケロは彼の生涯を「国家の輝きと装飾」と呼び、彼を「共和国の立派な擁護者」の一人に挙げています。ウァッロ・ルクッルスは、ローマ社会において重要な役割を果たし、その死後も記憶される人物でした。

ウァッロ・ルクッルスの生涯は、共和政ローマの政治、軍事、社会構造を理解する上で貴重な事例を提供してくれます。彼の業績は、ローマ史に深く刻まれ、後世に語り継がれています。

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