ルキウス・リキニウス・ルクッルス

ルキウス・リキニウス・ルクッルス：軍事と美食に彩られた生涯

ルキウス・リキニウス・ルクッルス（紀元前118年 - 紀元前56年）は、共和政ローマの政治家、軍人として活躍しました。彼の生涯は、軍事的な成功と、引退後の贅を尽くした生活という二つの側面から語ることができます。ルクルスとも呼ばれる彼の足跡を詳細に見ていきましょう。

名門の家系と初期のキャリア

ルクッルスは、ローマの名門リキニウス家の出身です。父も同名のルキウス・リキニウス・ルクッルスで、母カエキリアは、クィントゥス・カエキリウス・メテッルス・ヌミディクスの姉妹という、有力な一族に連なる人物でした。このような恵まれた家系に生まれたルクッルスは、早くから政治の世界で頭角を現します。スッラの支持者として同盟市戦争に参加し、紀元前88年にはスッラのローマ進軍を支持するクァエストル（財務官）を務めました。

軍人としての活躍

紀元前74年、ルクッルスは執政官に就任し、ポントス王ミトリダテス6世との第三次ミトリダテス戦争に派遣されました。彼は卓越した軍事的才能を発揮し、紀元前72年のカビラの戦いでミトリダテス6世を破り、アルメニアへ逃亡させました。さらに、ミトリダテス6世を匿ったアルメニア王ティグラネス2世とも戦い、紀元前69年のティグラノセルタの戦いで決定的な勝利を得ました。紀元前68年にはアルタクサタの戦いでも勝利を収め、東方におけるローマの勢力拡大に大きく貢献しました。

栄光からの失墜

しかし、ルクッルスの軍事的成功は、長くは続きませんでした。アジアでのローマ軍の維持を略奪に頼り、兵士たちに冷淡な態度をとったため、兵士たちの不満は高まりました。さらに、プブリウス・クロディウス・プルケルの活動によって、ルクッルスの名声は失墜し、軍内での権威も衰退していきました。最終的に、軍の指揮権はグナエウス・ポンペイウスに引き継がれ、ルクッルスはローマへと帰還しました。紀元前63年にプロコンスルとして凱旋式を挙げることはできたものの、彼の軍人としてのキャリアは、不本意な形で幕を閉じることとなりました。

贅を尽くした晩年

引退後のルクッルスは、その財力を惜しみなく使い、贅を尽くした生活を送りました。彼は各地に豪邸を建て、中近東から持ち帰った美術品や書物を飾りました。その贅沢ぶりは、プルタルコスの「ルクッルス伝」にも記されており、「トーガを纏ったクセルクセス」とまで呼ばれたほどです。また、彼はヨーロッパに食用サクランボとアンズをもたらした人物としても知られています。

食通としての名声

ルクッルスは、美食家としても名高く、その名はヨーロッパでは食通の代名詞とされています。彼の豪華な食事は「ルクッルス式」と呼ばれ、現在でもその贅沢さが語り継がれています。ルクッルスは、良質な食材を確保するために、海水を引き入れた池で魚を育て、鳥や牛を飼育し、自家の農園で野菜や果物、チーズを生産させました。また、食事の際の部屋の装飾、音楽、会話、そして客の選定にもこだわり、最高の食事体験を追求しました。

「ルクッルスがルクッルスと食事をする」

ルクッルスの美食家ぶりを示す有名な逸話があります。ある時、彼が一人で食事をする際、従者が普段よりも簡素な食事を用意したところ、ルクッルスは「今日はルクッルスがルクッルスと一緒に食事をすることを知らないのか」と叱責したと言われています。また、キケロとポンペイウスが彼を訪問した際にも、部屋によって食事の内容が異なるという逸話が残っています。彼はアポロンの部屋で食事をすると指示し、それが最も豪華な食事を意味することを知っていた従者が、それにふさわしい料理を用意しました。この逸話は、ルクッルスの食に対する並々ならぬこだわりを象徴しています。

文化活動への貢献

美食だけでなく、ルクッルスは文化活動にも貢献しました。トゥスクルムの別荘に大規模な私設文庫を設け、そこには戦利品として持ち帰った書物が蔵書されていました。後年、キケロや小カトーなどの知識人たちもこの文庫を利用したと言われています。ルクッルスは、美食家であると同時に、文化的なパトロンでもありました。

ルキウス・リキニウス・ルクッルスは、軍事的な成功と贅沢な生活、そして美食への情熱を通して、後世に語り継がれる人物となりました。彼の生涯は、ローマ共和政期の華やかさと、権力と富がもたらす栄光と転落を描き出しています。

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