マルタ包囲戦 (1565年)

マルタ包囲戦：地中海の覇権をかけた攻防

1565年、オスマン帝国とマルタ騎士団の間で繰り広げられたマルタ包囲戦は、16世紀ヨーロッパにおける最も有名な出来事の一つです。ヴォルテールが「マルタ包囲戦ほど広く知られるものはない」と評したように、この戦いは、オスマン帝国の地中海における覇権を揺るがし、スペインに新たな局面をもたらしました。

マルタ騎士団の由来

マルタ騎士団は、12世紀前半にエルサレムで設立された聖ヨハネ騎士団を起源とします。十字軍の一翼を担い、イスラム諸国から聖地を守るために戦いました。1530年、神聖ローマ皇帝カール5世（スペイン国王カルロス1世）がマルタ島を彼らに与え、以降、マルタ騎士団として知られるようになりました。

ロドス島からマルタへ

1522年、騎士団はロドス島をオスマン帝国に奪われ、本拠地を失いました。カール5世は、彼らにマルタ島とゴゾ島を与えることを提案します。条件は、毎年一羽の鷹をシチリア副王に納め、聖人の祝日にミサを挙げること。さらに、北アフリカ沿岸のトリポリ守備も要求しました。

騎士団幹部たちはロドス島奪還を夢見ており、スペインへの従属を意味するこの申し出に難色を示しました。マルタはロドス島に比べ、経済的にも軍事的にも価値が低いと考えられていたからです。しかし、選択の余地はなく、騎士団はマルタへ移り、要塞化を進め、異教徒の商船を襲撃しました。マルタは東西を結ぶ戦略上の要衝となり、その重要性を増していきました。

オスマン帝国の脅威

当時、バルバリア海賊のトゥルグト・レイスは、地中海中央部のカトリック教国にとって大きな脅威でした。1551年、トゥルグトとオスマン帝国のスィナン・パシャはマルタ島を襲撃し、ゴゾ島を占領。トリポリも難なく占領しました。これを受け、騎士団総長フアン・デ・オメデス・イ・コスコンは再侵攻を予測し、聖アンジェロ砦の強化と、聖ミケーレ砦、聖エルモ砦の建設を命じました。

戦闘準備

ジェルバ島の戦いで大敗した後、オスマン軍のマルタ再侵攻の可能性が高まりました。ジャン・ド・ヴァレットは騎士団員に招集をかけ、戦闘準備を命じます。騎士団は異教徒の船を襲撃し、略奪を続けました。1564年には、マトゥリン・ロメガスが後宮の宦官長所有の船を捕らえ、多数の高位の人々を連行しました。

1565年初頭、ド・ヴァレットのスパイが侵攻が迫っていることを知らせました。ド・ヴァレットはイタリアで募兵を開始し、物資を貯蔵し、三つの砦の整備を完了させました。

両軍の陣容

1565年3月下旬、オスマン帝国の艦隊がイスタンブールを出撃しました。その規模は、ガレー131隻、小型ガレー7隻、大型ガレー4隻、その他輸送船舶を含め、計193隻に及んだとされます。一方、防衛側のマルタ騎士団は、騎士・兵士3000人、民兵10,000人、奴隷500人を擁していましたが、民兵の多くは武器の扱いに不慣れでした。

オスマン軍の上陸

5月18日の夜明け頃、オスマン艦隊がマルタ近海に姿を現し、マルサシュロック港に停泊しました。騎士団は奴隷を投獄し、戦闘に役に立たない者を退去させ、戦闘可能な者は家財や家畜を連れて内陸の城砦へ避難させました。畑の作物を破棄し、水源に薬草を放り込みました。

聖エルモ砦の陥落

オスマン軍は聖エルモ砦の攻略に取り掛かりました。騎士100人と兵士500人が守備隊として配置され、救援隊が到着するまで死守する構えを見せていました。オスマン軍は36箇所の砲台を据え、猛烈な砲撃を加えました。約一週間で聖エルモ砦は瓦礫と化しました。6月23日、ついにオスマン側は聖エルモ砦を奪取。しかし、トゥルグト自身も砦攻略準備中に砲撃によって受けた耳の傷が元で戦死しました。聖エルモ砦の襲撃で約4,000人のオスマン兵が負傷・戦死したと言われています。

聖ミケーレ砦

7月15日、ムスタファはセングレアにある岬への攻撃を指示しました。しかし、オスマン側からの脱走者がこの計画を知らせたため、マルタ側は事前に防御を固めることができました。オスマン軍は、ビルグとセングレアを環状に囲み、65台の攻城用大砲で首都を砲撃。8月7日には総攻撃を命じ、首都の防壁を突破しました。

終結

陥落寸前の9月7日、スペインのガルシア・デ・トレドが約8,000人の兵を率いて上陸しました。オスマン軍は救援軍の上陸の報を受け、形勢不利と見て包囲を解き、撤退準備を始めました。9月11日、オスマン軍がマルタを撤退した後、傷病のため取り残されたオスマン軍の野戦病院を襲撃し大半を虐殺しました。

結果

犠牲者の数は定かではありませんが、オスマン軍は約30,000人の兵を失ったと推測されています。マルタ騎士団も騎士・兵士の5/6に相当する7,000人強を失いました。ビルグとセングレアは平らになってしまいましたが、多額の献金が島へ流れ込み、ラ・ヴァレッタ建設を後押ししました。この戦いは、オスマン帝国の最初の敗北となり、スペイン王国の士気を引き上げました。

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