マルチ・スズキ・インディア

マルチ・スズキ・インディアについて

マルチ・スズキ・インディア（Maruti Suzuki India Limited）は、日本の自動車メーカーであるスズキのインドにおける乗用車生産・販売子会社です。通称「マルチ・スズキ」として知られ、インドを含む南アジア地域で最大の自動車会社としての地位を確立しています。この会社は、インド政府との合弁事業として「マルチ・ウドヨグ」の名で1981年2月に設立され、その後、スズキが段階的に出資比率を高め、2002年5月に子会社化、2007年7月に現在の社名に変更されました。

概要

創立: 1981年
工場操業開始: 1983年
本社: ニューデリー
工場: ハリヤーナー州グルガーオン、ハリヤーナー州マーネーサル、ハリヤーナー州カルコダ（建設中）
出資比率: スズキ 58.2%（2023年10月時点）
生産実績: 206.6万台（2023年度）
従業員数: 12,100人（2013年4月時点）

歴史

1970年代、インドの自動車産業は旧態依然とした状況にあり、高コストで性能の低い自動車が製造されていました。このような状況を打破するため、当時の首相インディラ・ガンディーの息子であるサンジャイ・ガンディーが国民車構想を提唱し、1971年6月にマルチ（MARUTI LIMITED）を設立しました。しかし、1980年6月にサンジャイ・ガンディーが飛行機事故で急逝したため、この構想は一時頓挫します。

1981年2月、インド政府はマルチを国営企業マルチ・ウドヨグとして再編し、合弁パートナーとしてスズキを選定しました。1982年3月には、インド政府の代表団が日本の自動車メーカーを訪問しましたが、当時、日本の自動車メーカーの関心は主にアメリカ市場に向けられており、スズキの鈴木修社長のみが最初から最後まで対応しました。同年10月、スズキとの間で合弁契約が締結され、スズキはインド市場への進出を決定しました。この決定は当時としては異例であり、経営危機も懸念されました。

1983年12月14日、マルチ・スズキは最初の生産車であるマルチ800をラインオフしました。この日はサンジャイ・ガンディーの誕生日でした。マルチ800は、日本の軽自動車スズキ・アルトをベースにした低価格車で、インド市場で爆発的な人気を博し、1980年代の小型車市場をほぼ独占しました。

1992年、スズキは出資比率を50%に引き上げました。2000年代に入ると、インド国民の平均所得の向上とともに、マルチ・スズキの生産台数も急増しました。また、アルトの欧州輸出も開始されました。2002年、スズキは出資比率を過半数の54%に引き上げ、マルチ・スズキを子会社化しました。2005年には、経済産業省から「日本ブランド創造貢献企業」として表彰され、小型車に強みを持つスズキが、最も適した市場に進出したとして、ビジネスモデルが高く評価されました。2006年12月21日、インド政府は保有していた全株式を売却し、マルチ・スズキは完全民営化されました。2007年9月17日には、社名を現在のマルチ・スズキ・インディアに変更しました。2007年度には、スズキのインドにおける新車販売台数が初めて日本国内を上回り、インド市場での成長が加速しました。

2012年7月18日、マーネーサル工場で従業員間のトラブルを発端とする大規模な暴動が発生し、1名が死亡、100名以上が負傷しました。この暴動により、工場は約1ヶ月間操業停止を余儀なくされました。2014年1月18日には、マルチ800の製造が終了し、累計販売台数は250万台を超えました。2014年1月28日、スズキはグジャラート州アフマダーバードに四輪車生産子会社「スズキ・モーター・グジャラート」を設立することを発表しました。この子会社は、マルチ・スズキの設備投資負担を軽減し、スズキ自身が工場運営への関与を強化することを目的としていました。

2015年5月には、累計生産台数1,500万台を達成し、同年には新しい販売網として「NEXA（ネクサ）」を立ち上げました。2021年5月には、インド国内の新型コロナウイルス感染拡大に伴い、医療機関への酸素供給を優先するため、国内3工場での生産を一時停止しました。2022年11月2日には、累計生産台数が2,500万台を突破し、2024年10月29日には、2025年9月30日を目処に、四輪車生産子会社「スズキ・モーター・グジャラート」をマルチ・スズキが吸収合併することを発表しました。

社名について

「マルチ」という名称は、インドの風の神「マールティ」に由来しており、自動車が軽快なスピードで走行するイメージを表しています。設立時の社名「ウドヨグ」は、ヒンディー語で「産業・工業」を意味する「ウドヨーグ」をカタカナ表記したものです。2007年の社名変更は、同社製の乗用車が「マルチ・スズキ」ブランドとして広く認知されていたため、会社名をブランド名に合わせたものです。

主な生産・販売車種

マルチ・スズキでは、日本で軽自動車として販売されている車種を、インドの市場環境に合わせて800ccや1000ccエンジンに換装し、ボディサイズを若干拡大して販売しています。また、マニュアルトランスミッションが標準となっています。以下に主な車種を、販売チャネル別に紹介します。

MARUTI SUZUKI ARENA で販売される車種

アルト800（マルチ800の後継モデル）
アルトK10（5代目アルトベース）
ワゴンR（イグニスベース、日本仕様とはデザインが異なる）
エスプレッソ
セレリオ
スイフト
ディザイア（スイフト派生のセダン）
エルティガ
オムニ（初代エブリイ）
イーコ（エブリイランディ）
ジプシー（2代目ジムニーのホイールベース延長モデル）
ビターラブレッツァ

NEXA で販売される車種

XL6（エルティガベースの上級MPV）
S-CROSS（SX4 S-CROSS）
バレーノ/バレーノRS（マネサール工場から世界各国へ輸出）
シアズ/シアズS
イグニス
フロンクス（バレーノベースのSUV）

販売終了車種

マルチ800（アルト）
エスティーム（カルタス）
ゼン（セルボ・モード）
ゼン・エスティロ（MRワゴン）
SX4
Aスター
キザシ
リッツ（スプラッシュ）
スティングレー（ワゴンRの派生車種だが日本仕様とは異なる）



マルチ・スズキは、インドの自動車市場において重要な役割を果たしており、今後もその成長が期待されています。

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