マルドニオス

マルドニオス：ペルシア帝国の将軍、そしてプラタイアの悲劇

マルドニオスは、アケメネス朝ペルシアにおいて重要な役割を担った将軍でした。紀元前5世紀、古代ギリシアとペルシアの覇権をかけた激動の時代を背景に、彼の生涯は栄光と悲劇に彩られています。

彼はペルシア王ダレイオス1世の功績ある臣下ゴブリュアスの子として生まれ、王の娘アルタゾストレと結婚しました。この婚姻関係は、彼がペルシア宮廷においていかに高い地位を占めていたかを示すものです。さらに、マルドニオスは、ペルシアの中でも親ギリシア派として知られていました。この立場は、後の彼の行動に影響を与えたと考えられます。

紀元前492年、マルドニオスはトラキアとマケドニア王国への遠征を指揮しました。陸軍と海軍を率いた彼は、ギリシア諸都市をペルシアの支配下に置くことを目指しましたが、アトス山沖での海戦における大敗と陸軍の甚大な損害により、遠征は失敗に終わります。この遠征の失敗にもかかわらず、マルドニオスはその後もペルシアの軍事戦略の中枢に位置し続けました。

ダレイオス1世の後を継いだクセルクセス1世による第二次ペルシア戦争では、マルドニオスは重要な役割を果たします。歴史家ヘロドトスの記述によれば、彼はクセルクセスのギリシア遠征を熱心に支持し、その戦略立案に大きく関与しました。紀元前480年、サラミスの海戦でペルシア海軍が壊滅的な敗北を喫すると、クセルクセスはペルシアに帰還します。しかし、マルドニオスは30万とも言われる大軍を率いてギリシアに留まり、ギリシアの征服を続けようとしたのです。

マルドニオスはアテナイに降伏を要求しますが、拒絶されます。彼は紀元前479年、アッティカに再侵攻し、アテナイを再び破壊しました。しかし、彼の野望はプラタイアの戦いで終止符を打たれます。スパルタの将軍パウサニアス率いるギリシア連合軍との激戦の末、マルドニオスは戦死しました。この戦いは、ペルシアのギリシア征服計画を完全に打ち砕き、ペルシア軍はギリシア本土から撤退を余儀なくされます。

マルドニオスの生涯は、野心と戦略、そして最終的な敗北というドラマチックな物語です。ペルシア帝国の重要な軍事指導者として、彼の行動は古代世界の政治と軍事史に大きな影響を与えました。彼はペルシア宮廷の有力者でありながら、親ギリシア派として知られ、その複雑な立場は彼の行動を理解する上で重要な要素となっています。プラタイアの戦いで敗死したものの、彼の戦略と軍事能力は、今もなお研究者の間で議論されています。彼の生涯は、成功と挫折、そして一人の将軍の運命と歴史の転換期が織りなす、壮大な物語として語り継がれています。

参考文献

* ヘロドトス著　松平千秋訳『歴史（下）』（岩波文庫）

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