マンスーラの戦い (1250年)

マンスーラの戦い：十字軍とアイユーブ朝の激突

マンスーラの戦いは、1250年2月8日から2月11日にかけて、エジプトのマンスーラで繰り広げられた、十字軍とイスラム勢力との間の重要な戦闘です。フランス王ルイ9世率いる第7回十字軍と、アイユーブ朝エジプト軍（将軍ファクル・アッディーン・ユースフ、マムルークのバイバルス）が激戦を繰り広げました。

戦いの背景

1244年、エルサレムがイスラム勢力の手に落ちたことが、この戦いの遠因となります。十字軍側は、エジプトをイスラム勢力の拠点とみなし、エルサレム奪還の障害と考えていました。1245年の第1リヨン公会議で、ローマ教皇インノケンティウス4世は、ルイ9世が計画していたエジプト攻略を支援することを約束しました。

ルイ9世はモンゴル帝国との連携も模索し、イスラム勢力を東西から挟撃しようと試みますが、モンゴル側は教皇の臣従を要求し、交渉は不調に終わりました。

1248年秋、十字軍の艦隊はキプロス島に集結し、ルイ9世はモンゴル帝国の使者と会見。翌1249年、ルイ9世の弟であるアンジュー伯シャルルとアルトワ伯ロベールが率いる先遣隊がエジプトへ向かい、6月にダミエッタを占領しました。これに対し、エジプト全土に戒厳令が敷かれ、臨戦態勢に入ります。

十字軍はナイル川の増水期を前に進軍を一時中断。アイユーブ朝のスルタンであるサーリフは、ダミエッタ返還と引き換えにエルサレムを譲渡すると提案しますが、十字軍側はこれを拒否し、カイロへの進軍を決意します。

一方、サーリフは病に倒れ、11月22日または23日に陣没。妻のシャジャル・アッ＝ドゥッルは、夫の死を隠蔽し、軍の士気を維持しようと努めます。彼女はマムルーク軍団長のファリス・アッディーン・アクタイを派遣し、サーリフの息子であるトゥーラン・シャーを呼び戻させました。アクタイ不在の間、バイバルスがマムルーク軍団の指揮を代行。イスラム側は十字軍に対し、ゲリラ戦術を展開し、多くの捕虜を得ました。しかし、サーリフの死は、すでに十字軍側の知るところとなっていました。

戦闘の経過

十字軍は、現在のアル＝バハル・アル＝サギールに到達し、ナイル川を挟んでアイユーブ軍と対峙しました。ルイ9世は渡河に苦慮し、船を解体して橋を架けようとしましたが、困難を極めます。

2月8日、ルイ9世とその弟たちは、現地の人間から教えられた浅瀬を通り渡河に成功。ブルゴーニュ伯らに陣営の守備を任せました。テンプル騎士団とソールズベリーのウィリアム2世・ド・ロンゲペーが率いるイングランド分遣隊と共に運河を渡り、マンスーラから約3km離れた地点でアイユーブ軍に奇襲をかけ、将軍ファクル・アッディーン・ユースフを討ち取りました。

奇襲の成功に気を良くしたルイ9世は退却を命じますが、ロベールは反対を押し切り、マンスーラ市内に突入。アイユーブ軍は態勢を立て直し、シャジャル・アッ＝ドゥッルはバイバルスの作戦を承認しました。バイバルスはマンスーラの門を開け、十字軍兵士を市内に誘導。市内に突入した十字軍は、マムルーク軍団に四方から包囲され、退路を断たれました。ロベールは民家の中に逃げ込みましたが、ウィリアム2世は多くのテンプル騎士団員と共に戦死。突入した先遣隊290人のうち、生還者はわずか5人でした。アイユーブ軍は、ロベールが身に着けていた紋章を発見し、「ルイ王を討ち取った」と勝利を宣言しました。10日の午後から日没にかけて、戦場には1,500人もの十字軍兵士の遺体が散乱していたと伝えられています。ルイ9世は橋の防備に専念しましたが、撤退を余儀なくされ、多くの逃走兵が運河で溺死しました。

翌2月11日、アイユーブ軍は反撃を開始。カイファーから帰還したトゥーラン・シャーの軍もエジプト防衛に加わりました。十字軍は物資の欠乏と疫病に苦しみ、同年4月のファリスクールの戦いでルイ9世はアイユーブ軍の捕虜となりました。

戦いの評価と影響

マンスーラの戦いは、当時の作家や詩人によって多くの作品の題材とされました。アラビア語で「勝利」を意味するマンスーラという都市は、この戦いによってその名声を高めました。現在もダカリーヤ県の県都としてその名を残し、2月8日は県の記念日となっています。

この戦いは、十字軍の衰退を象徴する出来事の一つとして、歴史に深く刻まれています。

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