ミカヅキグサ

ミカヅキグサ（学名：Rhynchospora alba）は、カヤツリグサ科ミカヅキグサ属に分類される多年生の草本です。主に日当たりの良い湿地や高層湿原に生育し、細く白い穂が特徴的です。

株は根茎があまり発達せず、ややまとまって生じます。花茎は直立し、高さは10cmから30cm程度になります。根元から生じる葉は花茎とほぼ同じ長さか、それより短いです。葉は非常に細く、幅はわずか0.5mmから1mmほどで、縁が内側に巻き込む特徴を持ちます。

花期は夏から秋にかけての7月から10月です。細く直立した花茎の先端近くに花序をつけます。花序は少数の小穂が集中して束のように集まったもので、その基部には線状の葉に似た苞があり、花序よりやや長い程度です。花茎の下部からも葉が出ることがあり、その葉の付け根からも小さな花序を持った枝を出すことがあります。小穂は短い柄の先に数個がやや頭状に集まってつきます。生きている間は鮮やかな白色ですが、乾燥すると淡い黄褐色に変化します。

和名の「ミカヅキグサ」の由来は明確ではありません。漢字では「三日月草」と表記されることがありますが、緑色の葉に対して白い穂を持つ姿が、夕闇に浮かぶ三日月に見立てられたという説や、細長い白い小穂そのものが三日月の形に似ているという推測があります。

本種は日本国内では北海道、本州、九州に分布し、国外では朝鮮半島、台湾、ユーラシア、北アメリカにも広く分布しています。特に寒冷地の湿地を好む北方系の植物とされています。国内での分布を見ると、本州では主に中部地方以北に多く見られ、関西以西では少なく、九州では非常に稀な存在です。しかし、一般的な北方系湿地植物としてはやや例外的な分布を示し、例えば東海地方の愛知県を中心とする湧水湿地群や、渥美半島の標高がほとんどないような低地の湿地にも生育が確認されています。これらの南西部の生育地は、氷河期に広く分布していた名残（遺存分布）と考えられています。

ミカヅキグサ属には世界に約350種が知られており、日本には約10種が分布しています。日本に分布するミカヅキグサ属の種の中で、生育中に白い小穂をつけるのは本種のみであり、識別の上で大きな特徴となります。属内には多様な形態を持つ種があり、例えばイガクサ（R. rubra）は小穂が頭状に密に集まるなど、本種とはかなり姿が異なります。一方で、イヌノハナヒゲ（R. japonica）のように、少数の小穂が散房状に集まった花序を形成するなど、本種に似た形態を示す種も複数存在します。しかし、これらの近縁種は小穂が褐色であるため、白い小穂を持つミカヅキグサとの区別は比較的容易です。

環境省のレッドデータブックには指定されていませんが、多くの府県レベルではその希少性が認識され、レッドデータリストに掲載されています。特に新潟県や、石川県、福井県、滋賀県、三重県を結ぶラインより西側の府県で指定が多く見られ、これらの地域では比較的珍しい存在と言えます。興味深いのは、さらに南西に位置する宮崎県や鹿児島県でも指定がある点です。これらの地域では、点在する湿地が重要な生育地となっています。

湿地に生育する植物であるため、生育環境の悪化が生存を脅かす最大の要因となります。具体的には、湿地の乾燥化、富栄養化、そして周囲の植生による遷移（他の植物が侵入して湿地環境を変えること）の進行などによって、生育環境が失われたり、悪化したりすることが懸念されています。

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