ミゲル・フレータ

ミゲル・フレータ（Miguel Burró Fleta, 1897年12月28日 - 1938年5月30日）は、スペインのアラゴン地方出身のテノール歌手です。彼の正確な誕生日は異説も存在しますが、一般的には1897年12月28日とされています。

デビューと初期の活躍

フレータは、農作業に従事する傍ら、11歳から声楽を始めました。1917年、20歳の時にサラゴサで初舞台を踏み、その後バルセロナのリセウ音楽院で2年間、声楽の他、イタリア語、フランス語を学びました。その才能を認められ、イタリアに渡り、リッカルド・ザンドナーイに見出されます。1919年、トリエステでザンドナーイのオペラ『フランチェスカ・ダ・リミニ』のパオロ役で本格的なデビューを果たしました。

デビュー後3年間は、イタリア各地に加え、ウィーン、ブダペスト、プラハ、ワルシャワといった東欧の劇場で活躍しました。ジョルダーノの『アンドレア・シェニエ』、プッチーニの『トスカ』、レオンカヴァッロの『道化師』、ヴェルディの『アイーダ』、ビゼーの『カルメン』など、スピント系、ドラマティコ系の役柄を数多く演じました。1922年2月には、ザンドナーイの新作『ジュリエッタとロメオ』の世界初演で主役を務めるなど、その実力は高く評価されました。

栄光の日々

1923年から1925年には、当時世界最高水準のギャラを誇ったニューヨーク・メトロポリタン歌劇場に招かれ、ジーリ、ラウリ＝ヴォルピ、マルティネッリといった名だたるイタリア人テノール歌手たちと肩を並べ、『トスカ』、『アンドレア・シェニエ』などで絶賛を浴びました。

1925年以降は、故郷スペインと隣国ポルトガルを中心に活動を展開しました。30歳を迎える前の若きテノール歌手であったフレータは、母国で大スターとして迎えられ、莫大な富を得ました。1926年11月5日、バルセロナのリセウ劇場での『カルメン』公演では、当時としては珍しいラジオによる生中継がスペイン全土で行われ、アリア「花の歌」の際には、他の歌劇場にもフレータの声が流れたと言われています。

しかし、この頃からフレータは、各地の劇場を転々と歌い回るようになり、舞台が連夜に及ぶこともありました。この無理がたたり、声帯を酷使することとなってしまいました。1926年4月26日には、アルトゥーロ・[[トスカニーニ]]によってプッチーニの遺作『トゥーランドット』世界初演のカラフ役に抜擢されました。この役は、ジーリ、ラウリ＝ヴォルピ、マルティネッリ、そしてトスカニーニのお気に入りだったペルティーレなど、有力なイタリア人テノール歌手たちが競い合っていたため、フレータの起用は苦肉の策であったという見方もありますが、この大舞台で歌えたことは、フレータにとって大きな栄誉となりました。

転落

過密なスケジュールと無理な公演が祟ったためか、1926年頃から、フレータはスペイン国内や中南米での公演が増加し、オペラよりも声帯への負荷が少ないサルスエラやリサイタルへの出演が多くなりました。1929年には、当時としては珍しい世界一周ツアーを敢行し、日本、中国、メキシコ、グアテマラ、キューバ、プエルトリコ、カナダなどで公演を行いました。日本へは、1929年11月23日と26日の両日、東京の帝国劇場でリサイタルを開催した記録が残っています。この世界ツアーは経済的には大きな成功を収めましたが、フレータに必要な休養を与えるものではありませんでした。

政局の混迷と早すぎる死

1930年代に入ると、スペインの政治状況は混迷を深めました。王党派、共和派、そしてフランコ将軍率いるファランヘ党が、スペインの英雄であり大スターであったフレータの名前を利用しようと画策しました。フレータ自身は政治的には中立の立場でしたが、情勢の変化に合わせて、初めは王党派、1931年の革命で共和制になると共和派を支持しました。人民戦線政府は彼をマドリード音楽院の声楽教授に任命し、文化大臣の地位を与えようとしたという説もあります。しかし、スペイン内戦が勃発し、音楽教育への予算が大幅に削減されると、フレータは人民戦線側を批判し、ファランヘ党に再度鞍替えしました。ファランヘ党の戦費調達のためのコンサートにも出演するなどしましたが、この頃にはフレータの健康状態は悪化しており、常に疲労を訴えていました。正確な病名は不明ですが、腎臓病の一種ではないかと考えられています。1938年5月、フレータはラ・コルーニャの邸宅で40歳という若さで亡くなりました。その死については、ファランヘ党側が人民戦線勢力による政治的暗殺であるとの説を唱えるなど、彼の晩年は政治に翻弄される日々でした。

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