ミスト散布

ミスト散布とは

ミスト散布とは、人工的に液体を霧状にして散布する技術です。自然に発生する霧とは区別され、一般的には数μmから数十μmの微細な霧を利用します。この技術は、液体散布、加湿、冷却、冷房など、様々な目的に利用されています。使用される液体は水が一般的ですが、アルコール系溶剤などの薬剤も用いられることがあります。

なお、不審者対策などで用いられる濃霧を短時間で噴射する装置は、湿度や冷却効果を目的としないため、本稿のミスト散布とは区別されます。

ミスト散布の歴史

人工的に霧を作り出す試みは古くから行われており、ベンチュリの原理を利用した霧吹きがその初期の例です。霧吹きは、障子紙の伸縮やアイロンがけ前の衣類の湿潤など、生活の中で活用されてきました。1979年には、株式会社いけうちが、自然界の「もや」のような微細な霧を生成する技術を開発し、特許を取得した「AKIJet（アキジェット）ノズル」を開発しました。この技術は、ミスト散布の産業利用への道を開き、現在では数μmから十数μmの微細な霧を容易に散布できるようになり、様々な分野で応用されています。

湿度の管理（調湿）

ミスト散布は、加湿器として室内の湿度を適切に保つために利用されます。家庭では、体調管理のために加湿器が広く利用されており、産業界では、適切な湿度管理が製品の品質や作業効率に大きく影響するため、非常に重要視されています。湿度管理により、静電気の発生を抑えることができ、製紙業では紙切れの防止、電子機器産業では基盤保護に役立ちます。また、食品の保存や陶磁器の製造過程、粉塵の飛散防止など、様々な場面でミスト散布が活用されています。

超音波霧化は、液面に超音波を照射することで微細な液滴を生成する技術で、加湿器のミスト発生の仕組みとして用いられています。

薬剤の散布

農業、園芸、林業では、薬剤の使用量を最小限に抑えるために、霧状にして噴霧することがあります。これにより、液体の無駄を減らし、効率的に薬剤を散布できます。畜産業では、家畜の糞尿に消臭剤をミスト状に噴霧することで、作業環境を改善しています。ただし、屋外での薬剤散布では、微細な霧はドリフト（飛散）しやすいため、ある程度粗い霧が用いられることもあります。

気化熱を利用した冷房効果

ミスト散布は、気化熱を利用した冷房や冷却にも利用されています。霧状の水が蒸発する際に周囲の熱を奪うことで、気温を下げることができます。この原理は、打ち水と同じです。2003年に辻本誠や能美防災によって実験が行われ、2005年の「愛・地球博」で一般公開されてから、ミスト散布はビルや公共施設などの冷却設備として広く普及しました。

霧状の水粒子は非常に小さいため、すぐに蒸発し、肌や服が濡れることはほとんどありません。ミストは、高圧ポンプで圧縮された水を微細なノズルから噴射することで生成されます。水の粒子径は、一般的に5～30マイクロメートル程度です。

辻本誠らの研究によると、ザウター平均粒径を16μmにまで微細化したミストで、屋外の気温を2～3℃下げるのに必要なエネルギー消費は、家庭用エアコンの1/5〜1/20程度であるとされています。ただし、この値は諸説あり、実際の効果は設置場所や環境条件によって異なります。屋外でのミスト散布では、散布範囲、ノズルの配置、湿度、温度、風速などの様々な要因が影響します。また、ミスト散布はエアコンのように細かい温度調節が難しく、高温多湿な環境では、湿度が上昇して不快感が増す可能性もあるため注意が必要です。

2007年頃から環境意識が高まり、多くの企業や自治体が、ミスト散布をエアコンの代替として採用し始めました。

ミスト散布装置の仕組み

ミスト散布装置は、一般的にポンプで圧縮した水をノズルから噴射する「1流体方式」が主流です。この方式では、ポンプの圧力は低圧から高圧まで様々です。他に、圧縮された水と空気をぶつけ合わせる「2流体方式」があり、この方式ではより微細な霧を生成できますが、装置の構造が複雑でコストが高くなります。ミスト発生装置は、噴射方法に様々な工夫が凝らされており、各社の製品カタログやウェブサイトで詳細を確認できます。また、制御盤やバルブを組み合わせてシステム化することで、温度や湿度を計測し、冷却・加湿・散布の効果を測定したり、風速計や降雨センサーでフィードバックを行ったりする製品も販売されています。

設置例

東京都は、ミスト散布装置の設置に対して地方自治体として初めて補助金を設けました。この補助金を利用して、戸越銀座商店街、秋葉原クロスフィールド、六本木ヒルズ、新丸ビルなどが設置されました。また、愛・地球博で使用されたミスト散布装置は、愛知県の安城デンパークや豊田市駅前に移設されています。

国内最高気温を記録した熊谷市では、JR熊谷駅周辺にミスト散布装置が設置され、自動運転を行っています。また、東京都交通局の東大島駅では、試験的に導入されたミスト散布が撤去され、エアコン付きの待合室が設置されました。2008年の北京オリンピックでは、マラソンコースで選手を冷却するためにミスト散布が行われました。大阪市では、水道局がミスト散布に取り組む事業者に対し、水道料金の減免を行っています。

JR九州の特急「指宿のたまて箱」では、ドアが開いた際にミストを噴射する演出が行われています。

その他

ミスト散布は、一般的に霧散布や噴霧とも呼ばれますが、企業によっては独自の登録商標を使用している場合があります。例として、能美防災の「ドライミスト」、なごミスト設計の「なごミスト」、株式会社いけうちの「涼霧（りょうむ）システム」などがあります。

外部リンク

なごミスト設計 - ドライミストの開発
防災設備のご案内-ドライミスト - 能美防災株式会社
涼霧システム® - いけうち（霧のいけうち®）
キクの施設栽培における細霧噴霧装置による害虫防除効果、農林水産省

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