ミャンマー内戦 (2021年-)

ミャンマー内戦（2021年クーデター以降）

ミャンマーでは、2021年2月1日に発生した軍事クーデターを境に、長年続く内戦が質的に変化し、全土に拡大しました。クーデターに対する市民の抗議活動が軍によって暴力的に鎮圧された結果、多くの人々が武装抵抗へと転じ、「春の革命」あるいは「自衛のための戦争」とも呼ばれる新たな局面に入っています。

対立する主要勢力

この内戦の主要な当事者は、クーデターで政権を掌握した国家行政評議会（SAC）を頂点とする軍事政権と、それに抵抗する勢力です。抵抗勢力は多岐にわたりますが、中心となるのは以下の組織です。

国民統一政府（NUG）：民主派勢力によって樹立された亡命政府。2008年憲法を否定し、連邦制に基づく民主国家の実現を目指しています。
国民防衛隊（PDF）：NUGの指導のもと、主に市民によって組織された武装勢力。クーデター後の抗議活動を母体として発展しました。
少数民族武装勢力（EAOs）：ミャンマーの独立以来続く民族紛争を背景に活動してきた多様な武装組織。数百が存在すると言われ、NUG/PDFと連携してSACと戦う勢力もあれば、独自の立場から軍や他のEAOsと対立・協力するものもあります。

歴史的背景

ミャンマーにおける内戦は1948年の独立直後から始まり、主に民族的基盤に基づく反乱が繰り返されてきました。軍事政権による中央集権的な支配は、多くの少数民族地域の武装化を促しました。1988年の民主化運動とその弾圧は、ビルマ族主体の民兵組織の誕生にも繋がりました。1990年代には軍事政権が多くのEAOsの拠点を破壊し弱体化させましたが、完全な和平には至りませんでした。2011年の民政移管後、テインセイン政権は全国停戦合意（NCA）締結を試みましたが、全てのEAOsが署名せず、戦闘は散発的に続きました。2015年に国民民主連盟（NLD）政権が誕生した後も交渉は停滞し、一部のEAOsは軍と新たな紛争を抱えました。軍はEAOsの伸長や政権運営への不満を募らせ、2020年総選挙でのNLD圧勝を不正と主張し、2021年のクーデターへと踏み切りました。

クーデター以降の戦況と抵抗勢力の攻勢

クーデター後、市民は非暴力的な抗議デモを展開しましたが、軍はこれを武力で徹底的に弾圧しました。これに対し、多くの市民が武装抵抗へと転じ、PDFが組織されました。PDFはEAOsからの訓練や支援を受け、急速に戦闘能力を高めました。2021年9月にはNUGがSACに対する「自衛のための戦争」を宣言し、全国で戦闘が激化しました。

特に2023年10月27日以降、アラカン軍（AA）、ミャンマー民族民主同盟軍（MNDAA）、タアン民族解放軍（TNLA）からなる三兄弟同盟が開始した「1027作戦」は、戦況を大きく転換させました。シャン州北部を中心に軍事基地や主要都市が次々と抵抗勢力の支配下に入り、軍は建国以来最大の敗北を喫したと報じられました。この攻勢に連動し、他のEAOsやPDFも各地で軍に対する作戦を展開。ラカイン州、カヤー州、チン州などでも抵抗勢力が支配地域を拡大し、県庁所在地レベルの都市が初めて陥落するなど、軍は守勢に立たされています。軍は失地回復を目指し、大規模な作戦や空爆を続けていますが、抵抗勢力の勢いは衰えていません。

徴兵制と人材流出

抵抗勢力による攻勢と兵員の損失を受け、軍事政権は深刻な兵力不足に陥りました。2024年2月10日、SACは1959年制定の国家徴兵法を発効させ、これまで未実施だった徴兵を強行しました。18歳以上の若者を中心に強制的な徴兵が行われ、国外への逃亡が激増しています。特に隣国タイへの流出が顕著で、多くの若者が不法滞在者として低賃金労働を強いられています。国内では労働力不足が深刻化し、抵抗勢力に加わる若者も増えるなど、徴兵制は社会に新たな混乱と分断をもたらしています。

深刻化する社会的影響

長引く内戦と政治的混乱は、ミャンマー社会に壊滅的な影響を与えています。

人道危機：国際連合によれば、クーデター以降、160万人以上が国内避難民となり、55万戸が破壊されるなど、1760万人以上が人道支援を必要としています。
経済危機：経済成長率は大幅に落ち込み、通貨チャットは急落。物価が急騰し、国民生活は困窮しています。貧困率はクーデター前から倍増し、人口の半数近くが貧困ライン以下で生活。中間層は崩壊しつつあり、臓器売買や児童労働の増加、優秀な人材の国外流出が止まりません。
教育・医療危機：多くの公務員や医療・教育従事者が軍政への不服従運動（CDM）に参加したため、教育・医療システムが麻痺状態にあります。学校に通えない子どもが急増し、医療へのアクセスも著しく悪化しています。
* 信仰の危機：軍政に対する仏教僧侶の沈黙や一部高僧と軍幹部の関係は、仏教徒が多い国民の間に仏教や僧侶への不信感を招き、これまでタブー視されてきた批判が公然と行われるようになっています。

さらに、軍事政権による監視体制の強化や、違法ビジネスの拡大も社会問題となっています。

外部の介入

中国は、中緬国境地域の安定や自国の利権確保のため、内戦への関与を強めています。抵抗勢力の攻勢が国境付近に及ぶと、停戦仲介に乗り出す一方、軍事政権への支持を明確にし、抵抗勢力への圧力を強める動きも見られます。

ミャンマーの内戦は依然として複雑な様相を呈しており、人道危機は悪化の一途をたどっています。和平に向けた道筋は不透明なままです。

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