ミヤベイワナ

ミヤベイワナ：然別湖に生きる幻のイワナ

ミヤベイワナ（Salvelinus malma miyabei）は、北海道の然別湖だけに生息する、サケ科イワナ属の貴重な淡水魚です。オショロコマの亜種とされています。

誕生の背景

約1万5千年前に大雪山系の火山活動で然別湖が誕生。その際、川と海を行き来していたオショロコマが湖に閉じ込められ、独自の進化を遂げたと考えられています。

名前の由来

「ミヤベイワナ」という和名は、この魚を最初に発見した札幌農学校（現在の北海道大学）の宮部金吾教授に敬意を表し、魚類研究者の大島正満博士が1938年に命名しました。大島博士は、ミヤベイワナをオショロコマとは異なる独立種として分類しています。

オショロコマとの主な違いは、尾びれと胸びれが大きいこと、そしてエラにある鰓耙（さいは）の数です。オショロコマの鰓耙が21～22本なのに対し、ミヤベイワナは26本と多くなっています。

形態の特徴

ミヤベイワナの鰓耙が多いのは、然別湖に生息するプランクトンや昆虫類を主食とする食性に対応した進化の結果と考えられています。繁殖期を迎えたオスの体は、背中が盛り上がり、鼻先が曲がる特徴的な体型になり、カラフトマスを彷彿とさせます。通常は全長25～30cm程度ですが、湖で成長する個体の中には50cmを超える大型のものもいます。

生態

ミヤベイワナの繁殖期は秋です。然別湖の北岸に流れ込むヤンベツ川に群れをなして遡上し、川底の砂利に産卵します。孵化した稚魚は、卵黄の栄養を吸収した後、浮遊生活に入り、ヤンベツ川でプランクトンや小型昆虫を食べて成長します。翌春には、一部の個体を除き、ほとんどが然別湖へと下り、湖でプランクトンや昆虫を主食として回遊生活を送ります。およそ4年で成熟し、産卵のために生まれた川に戻る母川回帰性を持つことが知られています。オス、メスともに、成熟後は数年連続で繁殖行動を行います。ヤンベツ川に留まって成長する個体は、オスが多い傾向があります。

保護の現状と対策

ミヤベイワナは、環境省のレッドリストで絶滅危惧II類（VU）に指定されています。北海道の天然記念物として保護されており、鹿追町が運営する孵化場で人工繁殖が行われています。人工繁殖された稚魚はヤンベツ川に放流され、資源の維持が図られています。

人間との関わり

鹿追町内の養魚場では、ミヤベイワナが食用として養殖されており、然別湖畔温泉のホテルで塩焼きや唐揚げとして提供されています。ただし、ヤンベツ川は通年禁漁水域に指定されています。

然別湖では、期間限定でキャッチアンドリリースの釣りが許可されており、ミヤベイワナとの触れ合いを楽しむことができます。

関連情報

魚の一覧
イワナ
アメマス
オショロコマ
然別湖

参考文献

小林春毅、前川光司、ミヤベイワナにおける経年的な環境変化や新たな生息環境がもたらす形態の変化 日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会 セッションID: P1-120, doi:10.14848/esj.ESJ52.0.381.0

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