ミュルミドーン

ミュルミドーン

ギリシア神話に登場する重要人物、ミュルミドーン（古希: Μυρμιδών）は、テッサリアー地方南部に位置する古代の地域、プティーアーの王として知られます。その名は長音を省略して「ミュルミドン」と表記されることもあります。彼の出自には複数の伝承があり、最も一般的には大神ゼウスを父とし、母はクレイトールとされる一方、河神アケローオスの娘エウリュメドゥーサとの間の息子であるという説も存在します。

出自に関する異説と名の由来

ミュルミドーンの誕生にまつわる特に興味深い異説として、神学者アレクサンドリアのクレメンスの記録が挙げられます。彼によると、ミュルミドーンはゼウスが特別な姿、すなわち「蟻（ミュルメクス）」に身を変えて、エウリュメドゥーサと交わったことによって生まれたとされます。この伝承は、ミュルミドーンの名が「蟻」を意味する言葉に由来するという説を裏付けるものであり、クレメンスはこのことから、テッサリアー地方の一部の人々が蟻を崇拝していた背景にある可能性を示唆しています。この神話は、神々が様々な動物の姿をとって人間の女性と関係を持つというギリシア神話の典型的なパターンの一つであり、ミュルミドーンの出自に神秘的な側面を加えています。

家族関係と子孫たち

ミュルミドーンは、アイオロスの娘ペイシディケーを妻に迎えたと伝えられています。ペイシディケーとの間には、アンティポスとアクトールという息子をもうけました。

さらに、他の伝承においては、ミュルミドーンは以下の人物たちの父であるとも言われています。

エリュシクトーン: 穀物の女神デーメーテールの聖なる森を伐採するという冒涜的な行為を犯し、女神の怒りを買いました。その罰として、彼は決して満たされることのない、際限のない食欲に取り憑かれ、最後は自らの体を貪り食ったとも伝えられる悲劇的な人物です。
エウポレメイア: 娘であり、神々の使者であるヘルメースとの間に、記憶力が非常に優れていたとされるアイタリデースを生んだとされています。アイタリデースは、アルゴナウタイの一員として、イアソンの金羊毛探求に同行した人物です。
* ヒスキュラ: 娘とされ、一部の伝承ではトリオプスとの間にポルバース、あるいはエリュシクトーン（上記の人物と同一かは不明、あるいは異伝）、そしてアスクレーピオスの母であるイーピメデイアを生んだとされています。ヒスキュラの子孫もまた、ギリシア神話の様々な系譜に名を連ねています。

特筆すべきは息子アクトールです。彼はメノイティオスやエウリュティオーンの父（あるいはエウリュティオーンの祖父）となり、ペーレウスの友人でありアキレウスの従兄弟であるメノイティオスの父として、トロイア戦争の英雄たちの系譜に繋がる重要な役割を果たしています。ミュルミドーンの子孫は、このように多くの著名な英雄や神話的人物たちと関連を持ち、ギリシア神話の広大なネットワークの中でその名を留めています。

ミュルミドーン自身は、直接的な武勇伝や冒険譚で語られる機会は多くありませんが、その出自の神秘性や、彼の子孫たちが神話世界で果たした役割の大きさを鑑みると、プティーアーの王として、そして多くの英雄たちの祖として、ギリシア神話の系譜において欠かせない存在と言えるでしょう。彼の名は、後の時代に「ミュルミドーン人」（アキレウス配下の勇猛な戦士たち）という集団の名として知られるようになりますが、これは彼の名に由来すると考えられています。

もう一度検索