ミール (農村共同体)

ロシアの農村共同体「ミール」

ミール（mir、ロシア語: мир）は、ロシア帝国にかつて存在した農村共同体で、オプシーナ（obshchina、ロシア語: общи́на）とも呼ばれていました。19世紀から20世紀には「農村コミュニティ（selskoye obshchestvo）」という正式な名称でも知られていました。

ミールの成立と初期の機能

ミールの存在は、少なくとも15～16世紀には確認されており、各郷（ボーロスチ）の農民によって構成されていました。共同体の役員は、長老（スターロスタ）をはじめとして、農民たちによる選挙で選ばれ、共同体の運営を担っていました。役員たちは、森林の伐採や入会権、漁場や猟場の利用に関する権利などを定め、共同体内の資源管理を行っていました。

農奴制の強化とミールの変質

17世紀から18世紀にかけて農奴制が強化されるにつれて、ミールによる共同体自治は政府や地主によって制限されるようになりました。特に、18世紀初頭に導入された人頭税制度は、ミールに大きな影響を与えました。地主領の農奴に対しては、ミールごとに耕地が定期的に割り当てられるようになり、共同体としての役割が変質していきました。

19世紀におけるミールの再編

19世紀初頭には、国有地の農民にもミールが導入されました。1838年の法令によってミールは公認され、納税においては連帯責任を負うことが定められました。1861年のアレクサンドル2世による農奴解放後、ミールの成員はスホードと呼ばれる集会を開き、長老を選挙するようになりました。これにより、ミール内部での自主的な政治的意思決定が行われるようになりました。しかし、1889年には、この集会も政府の管理下に置かれることとなりました。

ミールの衰退

日露戦争の影響でロシア第一革命が起こった後の1905年、ストルイピンの改革によって私有地振興政策がとられたため、ミールは衰退に向かいました。

ミールの評価

ミールの制度は、ロシア独特のものとしてスラブ主義者から高く評価されました。一方、A.I.ゲルツェンのようなナロードニキ指導者たちは、ミールを基盤として、ロシアが資本主義を経由せずに社会主義へ移行できると主張しました。

まとめ

ミールは、ロシア帝国の農村社会において重要な役割を果たした共同体組織でした。農民による自治や資源管理が行われていましたが、農奴制や政府の介入によってその機能は変質していきました。ミールは、ロシアの社会構造や政治思想にも大きな影響を与えたと言えるでしょう。

参考資料

旧体制下のリチャード・パイプスのロシア
『ブロックハウス・エフロン百科事典（1906年）』
中田篤「ある氏族共同体の幼年期：サハ共和国の事例より」『北海道立北方民族博物館研究紀要』第23号、北海道立北方民族博物館、2014年3月20日

関連項目

コモンズ
コルホーズ
オプシュティナ

外部リンク

『ミール』 - コトバンク
ミール-infoplease
* Mir - New International Encyclopedia

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