ムカシトカゲ

ムカシトカゲ：生きた化石と呼ばれる原始的な爬虫類

ムカシトカゲ（Sphenodon punctatus）は、ニュージーランドの限られた地域にのみ生息する、原始的な特徴を色濃く残した貴重な爬虫類です。現地ではマオリ語で「背中のトゲ」を意味するトゥアタラ (tuatara) と呼ばれています。

系統と名称

ムカシトカゲは、その名に「トカゲ」とありますが、トカゲ（有鱗目トカゲ亜目）とは全く異なるグループに属します。ムカシトカゲはムカシトカゲ目（喙頭目）という、かつては多様な種が存在したグループの唯一の生き残りです。1895年以降、絶滅危惧種として保護されています。

トカゲやヘビなどの他の双弓類とは、進化の過程で早い段階で分岐しており、その原始的な形質から、初期の双弓類の姿や生態を推測する上で重要な役割を果たしています。

属名の Sphenodon は、ギリシャ語の「クサビ (sphenos)」と「歯 (odont)」に由来し、種小名の punctatus はラテン語で「斑点がある」という意味です。

発見の歴史

西洋で初めてムカシトカゲについて言及されたのは、1769年にジェームズ・クック船長がニュージーランドに上陸した際、マオリ族の族長から聞いたトカゲの話であると考えられています。しかし、その記録は実際のムカシトカゲとは異なり、「体長約2.5m、人のような幅で地下に住み、人を襲って食べる」とされていました。

確実な記録としては、1838年にユダヤ人商人のJ.S.ポラックが出版した書籍に、「プレンティ湾の島々に住むトカゲ」として記述されたものが確認されています。実際に捕獲したのは、博物学者のエルンスト・ディーフェンバッハで、彼は懸賞金をかけてムカシトカゲを探し求め、1841年にようやく手に入れることができました。ディーフェンバッハは大英博物館に標本を寄贈し、ジョン・エドワード・グレイによって Hatteria punctata という学名が与えられました。しかし、後に彼自身が以前に Sphenodon という属名を与えていたことが判明し、学名の命名規約により、現在の学名は Sphenodon punctatus となりました。

分類と進化

ムカシトカゲは、トカゲやヘビなどが属する有鱗目と共に、鱗竜形類に属します。ムカシトカゲの祖先は、鱗竜形下綱と主竜形下綱の分岐点近くに由来すると考えられており、「原爬虫類」に最も近い現存種と言えます。

かつてムカシトカゲはトカゲ亜目に分類されていましたが、アルベルト・ギュンターがその独特な特徴に注目し、化石種と共に喙頭目（Rhynchocephalia）という目を提唱しました。しかし、その後多くの無関係な種がこの目に加えられたため、喙頭目は「分類のゴミ箱」と化してしまいました。1969年になってO. クーンによってムカシトカゲ目とリンコサウルス目に分割され、リンコサウルス目は主竜類に再分類されました。現在では、ムカシトカゲとその近縁種に対して、より限定的な名称であるSphenodontia（ムカシトカゲ目）が用いられることが一般的です。

現生種の分類

現在、以下の2種が現存しています。

Sphenodon punctatus (Gray, 1842) ムカシトカゲ：以前は唯一の種とされていました。
Sphenodon gunteri Buller, 1877 ギュンタームカシトカゲ：より希少で、クック海峡のブラザー諸島にのみ生息しています。

進化

ジュラ紀の化石爬虫類 Homeosaurus は、現在のムカシトカゲに非常によく似ており、ムカシトカゲは「生きている化石」と呼ばれることがあります。これは、約2億年もの間、ほとんど姿を変えていないことを意味します。

しかし、近年の研究では、ムカシトカゲ目は中生代を通じて多様な進化を遂げていたことが明らかになっています。かつては、現在トカゲ類が占めている生態的地位の多くをムカシトカゲ目が占めていました。

ニュージーランドが他の陸地から切り離されたのは約8000万年前ですが、それ以前に到達していたムカシトカゲ目の一員が、今日まで生き残ったムカシトカゲの祖先であると考えられています。ムカシトカゲは寒冷な気候への適応を示し、ニュージーランドの島々での繁栄を可能にしました。

形態と生態

成体のムカシトカゲは、オスで全長61cm、体重1kgほどになります。メスはオスよりも小型です。背中にはトゲが並んでおり、オスの方がメスよりも大きいです。体色はオリーブグリーンから茶色、赤橙色まで変化し、成長に伴って変化します。

ムカシトカゲは基本的に夜行性で、昆虫などの無脊椎動物や、海鳥の雛、小型爬虫類などを食べます。森林下層や海岸部に巣穴を掘って生息していますが、海鳥の巣に住み着いていることもあります。

ムカシトカゲは、多くの爬虫類よりも低い温度で生存でき、冬眠もします。5〜10℃でも活動し、16〜21℃が適温ですが、28℃以上になると死に至ることもあります。

繁殖

ムカシトカゲの繁殖サイクルは非常に緩慢で、性成熟に少なくとも10年かかり、メスの交配と産卵は4年に1度です。メスは一度に8〜14個ほどの卵を産み、卵は12〜15か月かけて孵化します。孵化した幼体の性別は、卵の温度によって決まります。寿命は100年以上とも言われています。

保護状況

ムカシトカゲは、生息地の減少や移入種によって絶滅の危機に瀕しています。残された個体群は、哺乳類のいない沖合の島々に限られています。ニュージーランドでは、ムカシトカゲの保護と再導入の取り組みが行われています。

文化的な側面

マオリ族の伝説では、ムカシトカゲは神が姿を変えた族長だと考えられたり、死と災厄の神の使いとみなされたりしています。また、マオリの女性はムカシトカゲを食べることを禁じられています。かつてニュージーランドの5セント硬貨には、ムカシトカゲが描かれていました。

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