ムラード (ジョチ家)

ムラード（ジョチ・ウルス）

ムラード（生年不詳 - 1364年）は、バトゥ家の断絶後、ジョチ・ウルスのハンとなった人物です。彼はサライを首都としてハン位を継承しましたが、クリミア地方の有力者であったママイとの対立が深刻化しました。また、ムラードの出自については複数の説が存在します。

生涯

出自

ムラードの出自については、史料によって記述が異なります。

『ニコン年代記』などのロシア語史料: ヒズル・ハンの弟
『イスカンダル無名氏の史書』、『ムイーン史選』: オルダ・シャイフの息子でテムル・ホージャの弟
『伝記の伴侶』: ヒズル・ハンの子

いずれにせよ、ムラードがジョチの五男シバンの子孫であるヒズル・ハンの近親者であったことは確かです。

ハン位継承と内紛

『ニコン年代記』によれば、テムル・ホージャがママイとの戦いに敗れた後、サライのベグたちがムラードをハンに擁立したとされています。一方、『チンギズ・ナーマ』では、ムラード自身がヒズル・ハンを弑逆して即位したとされています。

テムル・ホージャを殺害したママイは、アブドゥッラー・ハンを擁立し、ジョチ・ウルスの西半分を支配しました。これにより、ジョチ・ウルスは、ママイの傀儡ハンとシバン家のハンが並立する状態となりました。ロシア語史料では、前者を「ママイ・オルダ」、後者を「ヴォルガ河の向こうの国」と呼んでいます。

さらに、ブルガール地方の有力者ボロト・テムルが自立するなど、地方の有力者が台頭し、ムラードの治世はジョチ・ウルスの分裂が進んだ時代でした。ママイとシバン家の対立は、後継のハンたちの時代にも引き継がれることになります。

シバン家系統図

ジョチ太子
シバン
カダク
トレ・ブカ
マングタイ
ヒズル・ハン
テムル・ホージャ
ムラード
バハドル
ジョチ・ブカ
ヤダクル
ミン・テムル
エルベク
カガン・ベク
ボラト
アラブシャー

参考文献

赤坂恒明『ジュチ裔諸政権史の研究』風間書房、2005年
加藤一郎「14世紀前半キプチャク汗国とロシア : 汗国史へのエチュード（3）」『言語と文化』第2号、文教大学、1989年
川口琢司「キプチャク草原とロシア」『中央ユーラシアの統合 : 9-16世紀』岩波書店、1997年
Howorth, Henry Hoyle. History of the Mongols from the 9th to the 19th Century*. London: Longmans, Green, 1970.

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