ムルシド・クリー・ハーン

ムルシド・クリー・ハーンの生涯と業績

ムルシド・クリー・ハーン（Ala ud-Daulah）は、1665年頃にデカン地方で生まれたとされるベンガル太守で、1727年6月30日に亡くなりました。彼の生涯は、貧しいバラモンの息子から始まり、さまざまな運命に翻弄されながらも、政治的に重要な地位に上り詰めた歴史的な人物です。

幼少期と奴隷時代

ムルシド・クリー・ハーンは幼少期に奴隷としてイランに連れて行かれ、イスファハーンでサファヴィー朝の貴族に仕えながら人生の多くを過ごしました。この期間にイスラーム教に改宗し、8年間の奴隷生活を経て解放され、インドに戻ります。その後、ムガル帝国の宮廷で働き、歳入の改善に貢献しました。

ベンガルにおける貢献

1690年代、ベンガル地方で反乱が起こると、ムルシド・クリー・ハーンはアウラングゼーブによって新たな太守の補佐として財務を管理する地位に任命されました。彼は財政改革を進め、徴税制度の見直しや公平な課税を実施。特に、反乱の悪影響からベンガルの経済を立て直すための施策を講じました。

彼は、古いザミーンダールを新興の自作農に切り替えると共に、税を遵守する者を優遇し、期限を過ぎた者には厳罰を科すという方法で歳入を安定させました。これにより、ベンガルの経済は急速に発展し、国内外の貿易も活性化しました。彼の主導のもと、ベンガルは商業的中心地としての地位を確立します。

政治的手腕

1707年、皇帝アウラングゼーブの死後、彼はベンガルの政権を一手に握るようになり、1704年には行政府をダッカからマフスーサーバードに移転させました。この移転は彼の政治的な権限を強化し、同時に地域の安定を図るための重要な決断となりました。1717年には皇帝から正式にベンガル太守に任命され、その際に首都も彼の名にちなんでムルシダーバードと改名されました。

半独立的な地位

ムルシド・クリー・ハーンは、ベンガルの税収をムガル帝国に納入しつつも、半独立的な権力を持つ立場にありました。この状況の中、1724年にデカンで他の地域では独立が進む中でも、彼はベンガルの経済的安定を保とうとしました。

死と後の影響

1727年、ムルシド・クリー・ハーンはムルシダーバードで死去しました。彼の死後、彼の後を継いだ娘婿がベンガルの太守となるも、彼の施策や税収の管理はすぐに拒否され、実質的に独立する事態となりました。この変化はムガル帝国にとって重大な打撃となり、豊かなベンガル地方からの税収が絶たれることで、帝国は財政難に直面しました。

ムルシド・クリー・ハーンの影響は、彼の在任中のみならずその後のベンガルの歴史にも大きな影響を及ぼしました。彼が構築した制度や商業の基盤は、後の時代につながる礎となり、ベンガルが持つ経済的ポテンシャルを引き出すことに寄与したのです。

参考文献

• - 堀口松城『世界歴史叢書 バングラデシュの歴史』明石書店、2009年。
• - 小谷汪之『世界歴史大 南アジア史2―中世・近世―』山川出版社、2007年。
• - フランシス・ロビンソン 著、月森左知 訳『ムガル皇帝歴代誌』創元社、2009年。

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