メイマンド

メイマンド：時を超えたイランの文化的景観

メイマンドは、イラン中央山脈の南端に位置するケルマーン州の村です。この地は、乾燥した砂漠気候の中で、人々と自然が共生してきた独特の文化的景観を今に伝えています。2015年にはユネスコの世界遺産に登録され、その価値が世界的に認められました。

季節移動と洞窟住居

メイマンドの最大の特徴は、伝統的な移牧を含む農牧業が営まれていることです。村人は、四季に応じて渓谷内の3～4ヶ所を移動しながら生活を送ります。

冬: 谷の下流にある柔らかい岩をくり抜いた洞窟住居で過ごします。
晩春: Sar-e-Āgholという集落へ移り、アザミの草葺き屋根を持つ石積みの半地下住居（Markhāneh）または円錐形の木の枝の屋根を有する石積みの円形の地上住居（Mashkdān）に住みます。
* 夏～初秋: Sar-e-Bāghという集落で、草葺き屋根の石積みの簡易住居（Sar-e-Bāgh）で過ごします。

家畜も春には屋根のある建物で過ごし、夏と秋には屋根のない石造りの囲いに移されます。かつては夏の村の周辺には小麦や大麦などを栽培するための段々畑や水車がありましたが、自給自足の生活様式が変化した現在では、その多くが廃墟となっています。しかし、ブドウの果汁から作ったシロップを貯蔵するための穴は、今も利用されています。

歴史の深さ

メイマンドの歴史は非常に古く、一説には12,000年前にまで遡るとも言われています。しかし、確たる証拠は少なく、岩絵の年代も紀元前6千年紀頃までしか遡れないとされています。岩窟住居群の起源については諸説あり、紀元前8～7世紀頃のメディア王国時代に宗教目的で建造されたという説や、西暦2～3世紀のアルサケス朝時代に南ケルマーンの民族が隠れ場所として築いたものが発展したという説があります。村の近くにあるメイマンドの要塞からは、サーサーン朝時代の骨壷が多数発見されており、これらの説を補強する材料となっています。

世界遺産登録

メイマンドは、2005年に文化的景観群の保護・管理に関してメリナ・メルクーリ国際賞を受賞しました。その後、世界遺産登録に向けて動き出し、2015年に正式に登録されました。登録に際しては、ICOMOS（国際記念物遺跡会議）から比較研究の不足などを指摘され、一時「登録延期」を勧告されましたが、イラン側の熱意と丁寧な再推薦により、最終的には登録が認められました。

登録基準は以下の通りです。

(5) ある文化（または複数の文化）を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。

世界遺産委員会は、メイマンドの文化的景観が乾燥した砂漠環境における伝統的な季節移動システムを反映しており、独特の冬用の洞窟住居を含む3つの居住区域への移動が、かつてより広い範囲に存在していたシステムの好例であると評価しました。

メイマンドの現状と未来

現在、400ほど残る洞窟住居のうち、実際に使われているのは100にも満たず、人口流出や伝統的な半遊牧生活の継承に対する懸念があります。しかし、世界遺産登録を契機に、メイマンドの文化的景観に対する関心が高まり、観光客が増加することで、地域経済の活性化や伝統文化の継承につながることが期待されています。

メイマンドは、過去と現在が交錯する、生きた文化遺産です。この地を訪れる人々は、自然と調和した人々の暮らし、そして悠久の歴史を感じることができるでしょう。

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