メコノプシス属

メコノプシス属（ケシ科）について

メコノプシス属（学名：Meconopsis）は、ケシ科に分類される植物の一群です。この属は、西ヨーロッパ、中央アジア、ヒマラヤ山脈の高山地帯、ミャンマー北部、そして中国の横断山脈といった、特定の地域に隔離された分布を示す特徴があります。

概要

メコノプシス属には、約50種の一年生または多年生の草本植物が知られています。ヨーロッパには「M. cambrica」という種のみが存在しますが、その他の地域に分布する種は、種間で容易に交雑し、発芽可能な雑種を生じることがあります。このため、系統的な分類が難しいとされています。

ケシ属と多くの共通点を持つ一方で、メコノプシス属は、花柱が明確に認められる点で区別されます。属名の「Meconopsis」は、ギリシャ語で「ケシに似た」という意味を持ち、「ケシモドキ」とも訳されます。園芸名としてもこの属名が使われ、特に「ヒマラヤの青いケシ」として知られる「M. betonicifolia」にちなんで「アオイケシ」というカナ表記が用いられることもあります。

メコノプシス属の多くの種は、開花後に枯死する一年生植物です。生育環境に非常に敏感で、種子の発芽率も低いことから、栽培が非常に難しいことで知られています。特に、高山が原産地であるため暑さに弱く、日本では一部の地域を除いて栽培が難しいとされています。しかし、北海道や東北地方などの寒冷な地域や、ヨーロッパでは比較的栽培が容易です。

生態

メコノプシス属の植物は、全体的に毛が生えていることが特徴です。また、丈に比べて大きな花を咲かせ、基本的には四弁花ですが、五弁や六弁の花を咲かせる種も存在します。低温に強く、寒さには強い性質を持っています。

花弁の枚数は種によって異なり、同一種内でも6〜8枚の花弁をつけることがあります。また、毛の有無も種によって異なり、ほとんど無毛のものから、サボテンのような棘を持つものまであります。草丈は、大きな種では2mを超えるものもありますが、多くは数十cm〜1.5m程度です。どの種も湿潤な環境を好みます。

ヒマラヤ産の種には、特に青い花を咲かせるものが知られており、「ヒマラヤの青いケシ」として有名です。しかし、この属の分布の中心はチベットから中国西部であり、ヒマラヤはむしろ分布の辺縁域にあたります。園芸化されている種も中国西部産のものが多いです。花の色は青以外にも、赤、ピンク、黄、クリーム、紫、白と多岐にわたり、プリムラなどと同じく、赤、青、黄の三原色が含まれる数少ない植物属の一つです。

高山帯に分布する種は、標高によって自生している種類が異なります。一方で、ヨーロッパ産の「M. cambrica」は、低山帯などにごく普通に生える雑草です。

人間との関わり

神秘的な青い花を咲かせるいくつかの種は、山野草として栽培されますが、栽培は非常に難しいです。ヨーロッパ産の「M. cambrica」はこぼれ種で増えるほど栽培が容易で、園芸植物としても栽培されています。しかし、花の色が黄やオレンジであるため、園芸植物としては物足りないという意見もあります。

日本では、いくつかの植物園でメコノプシス属の花を見ることができ、特に大阪市の咲くやこの花館では、一年を通して花を見ることができます。また、冷涼な気候の地域では、露地栽培で群生を観賞することもできます。長野県大鹿村の大池高原にある中村農園では、国内随一の5,000株を超える群生が有名です。他にも、竜王マウンテンパークや白馬五竜高山植物園、清里高原のキープ協会ファームショップ周辺、百合が原公園、イコロの森などでも群生を見ることができます。見頃は6月から7月ですが、開花期間が短く、気候状況によって開花時期がずれるため注意が必要です。

原産地のチベットなどでは、種子を食用にしたり、全草を薬用や漢方に用いたりしますが、多くの現地の人々からは、ヤクすら食べない棘だらけの厄介な雑草とされています。しかし、標高の高い地域に生息する「M. horridula」は、ブータンの国花に指定されています。

主な種

メコノプシス・ベトニキフォリア (Meconopsis betonicifolia)

「ヒマラヤの青いケシ」として知られる代表的な種で、主産地は中国雲南省北西部の高山地帯です。多年生のため、一度根付けば栽培が比較的容易ですが、低地で栽培すると花色が薄くなる傾向があります。園芸品種には、白花種や「M. grandis」との種間雑種があります。

メコノプシス・カンブリカ (Meconopsis cambrica)

唯一のヨーロッパ産種で、花の色は黄またはオレンジ色です。園芸用に栽培されてきたものが逸出して、ヨーロッパ各地に分布を広げています。近年の研究では、ケシ属に含めるのが妥当とされ、メコノプシス属の模式種であるため、属自体が消滅する可能性も指摘されています。

メコノプシス・ケレドニフォリア (Meconopsis chelidonifolia)

クサノオウに似た葉を持つことから名付けられました。黄色の花を咲かせ、クサノオウにも似た印象を与えます。

メコノプシス・グランディス (Meconopsis grandis)

本属の中で最も大きな花を咲かせ、多年生で栽培も容易です。主産地はヒマラヤで、花の色は薄い紫から深い青まで様々です。「ヒマラヤの青いケシ」の名は、この種にこそふさわしいとも言えます。

メコノプシス・ホリドゥラ (Meconopsis horridula)

標高4000m以上の高山地帯に生息し、棘だらけの外見から「天上の妖精」「幻の青いケシ」と呼ばれます。ブータンの国花に指定されており、花の色は紫がかった青や紅紫色です。

メコノプシス・ランキフォリア (Meconopsis lancifolia)

ミャンマー北部を原産とし、中国西部の高山地域に分布します。濃い青から紫、藍紫色の花を咲かせ、ピンク系の色が出ることは稀です。

メコノプシス・パニクラータ (Meconopsis paniculata)

東ヒマラヤ一帯を主産地とし、草丈が2mを超える大型種です。黄色い花を咲かせます。

メコノプシス・ナパルエンシス (Meconopsis napaulensis)

ネパールを含む東ヒマラヤ一帯を主産地とし、紅紫系の花を咲かせます。イギリスでは園芸用に栽培されていますが、多くは「M. paniculata」との種間雑種です。

メコノプシス・プニケア (Meconopsis punicia)

真紅の垂れ下がった花弁が特徴的な種で、中国西部に広く分布します。本属の中で唯一、真紅色の花を咲かせます。比較的標高の低い場所でも生育でき、日本では北海道で栽培が可能です。

メコノプシス・クイントゥプルネルウィア (Meconopsis quituplinervia)

「M. punicia」に似ていますが、より小型で花色は青紫色系です。花弁が平開する株も見られます。

メコノプシス・シンプリシフォリア (Meconopsis simplicifolia)

青い花を咲かせる種として最初にヨーロッパに紹介されました。青い花を咲かせる系統と赤紫色の花を咲かせる系統があります。

まとめ

メコノプシス属は、その美しい花で多くの人々を魅了する植物群です。栽培が難しい種が多いですが、その希少性や魅力から、園芸愛好家や植物研究者の間で注目されています。今後も研究が進むことで、新たな発見や栽培技術の確立が期待されます。

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