メッセル採掘場

メッセル採掘場：化石が語る始新世の記憶

ドイツ・ヘッセン州のメッセル村近郊に位置するメッセル採掘場は、かつて油母頁岩を採掘していた場所です。フランクフルト・アム・マインの南東約35kmに位置し、この地からは驚くほど多くの化石が発見されています。その地質学的、古生物学的な重要性から、1995年にユネスコの世界遺産（自然遺産）に登録されました。

採掘場の成り立ち

メッセル採掘場は、ライン地溝帯に位置し、盆地状の地形が特徴です。かつてこの場所には大きな湖が存在し、その一部が現在の採掘場跡地となっています。「グルーベ・メッセル」とは「メッセルの穴」という意味で、もともとは褐炭を採掘するための露天掘り鉱山でした。

豊富な化石の産出

メッセル採掘場から大量の化石が産出することは、20世紀初頭から知られていましたが、本格的な科学的発掘調査が始まったのは1970年代頃からです。露天掘りの採掘場は、地下60mほどの深さに、約1km²（1km x 0.7km）の範囲で広がっています。

メッセルの堆積物が形成されたのは、始新世と呼ばれる約5000万年前。当時のヨーロッパ大陸は現在よりも10度ほど南に位置していました。そのため、気候や生態系も大きく異なり、広大な湖の周囲には鬱蒼とした亜熱帯林が広がり、信じられないほどの生物多様性が育まれていました。

化石が良好な状態で保存された理由

メッセルの湖底は、大小さまざまな川が流れ込む地点であり、一帯の主な岩石である油母頁岩は、泥と枯れた植物が湖底に無酸素状態でゆっくりと堆積してできたものです。この頁岩は地下130mまで広がり、その上には砂岩の層が重なっています。

化石が頁岩の中に非常に美しい状態で保存された背景には、湖の独特な堆積環境があります。湖の上層には多様な生物が生息していましたが、湖底はほとんど攪拌されず、無酸素状態でした。そのため、湖底の泥に生息する生物種は限られ、生物攪拌が最小限に抑えられました。また、季節変動による湖水の層の入れ替わりが、水面近くの酸素濃度を低下させ、水生生物の季節的な大量死を引き起こしました。このような環境要因と、年間1mmという緩やかな堆積速度が、動植物の化石保存に最適な条件を作り出したのです。

火山ガスの影響

始新世のメッセル採掘場周辺地域は、地質学的にも活発な場所でした。研究者たちは、1986年にアフリカのニオス湖で発生したガス噴出のような現象が、大量の生物化石の堆積を説明できると考えています。定期的な湖水の層の入れ替わりによって、高濃度の二酸化炭素や硫化水素などの有毒ガスが湖や周辺の生態系に放出され、感受性の高い生物を死に至らしめた可能性があります。ガス放出時に湖面近くを飛んでいた鳥類やコウモリは墜落し、湖岸近くの陸生生物も被害を受けたと推測されています。

メッセル採掘場の化石

メッセル採掘場からは、始新世の動植物の化石が非常に良好な状態で発見されており、完全な骨格や、種によっては羽毛や皮膚の痕跡も残っています。主な化石の種類は以下の通りです。

魚類：1万点以上
水生・陸生昆虫：数千点（鮮やかな色彩が残るものも）
小型哺乳類：小型のウマ、大型のネズミ、霊長類、オポッサム、アルマジロ、ツチブタ、コウモリなど
鳥類：捕食性の鳥など多数
爬虫類・両生類：ワニ、カエル、カメ、サンショウウオなど
植物：ヤシの葉、果実、花粉、樹木、クルミ、ブドウの蔓など31種類以上

これらの化石は、当時の生態系や生物の進化を解明する上で非常に貴重な資料となっています。

世界遺産としての保護

メッセル採掘場は、風化しやすい岩質のため、かつては化石の発掘が十分に行われていませんでした。1971年に油母頁岩の採掘が中止された後、跡地を産業廃棄物処分場とする計画が持ち上がりましたが、専門家や市民の反対運動により計画は撤回され、ゼンケンベルク自然研究協会の管理下で自然保護地域となりました。そして1995年、その普遍的な価値が認められ、世界遺産に登録されました。

訪問情報

メッセル採掘場から産出した化石は、メッセルの博物館、ダルムシュタットのヘッセン州立博物館、フランクフルトのゼンケンベルク博物館で展示されています。採掘場近くの駐車場からは、採掘場を一望できる展望台まで徒歩で行くことができます。採掘場内への立ち入りは、特別に企画されたツアーに参加する必要があります。

メッセル採掘場は、太古の地球の記憶を今に伝える貴重な場所です。化石を通して、5000万年前の生物たちの息吹を感じてみてください。

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