メレナ

メレナ：黒色便の謎を解き明かす

メレナとは、上部消化管、小腸、もしくは上行結腸からの出血が消化管内を移動する過程で変化し、黒色を帯びた便として排出される状態を指します。一般的に「タール便」や「黒色便」とも呼ばれ、血便の一種ですが、肛門付近からの出血で赤みを帯びた血便とは明確に区別されます。その特徴的な黒色とタール状の粘稠度から、しばしば上部消化器からの大量出血を示唆し、緊急性の高い症状として扱われます。本稿では、主に成人におけるメレナの症状、原因、診断、そして鑑別診断について解説します。

メレナの症状

メレナで排出される便は、特徴的な黒色で、タール状の粘稠度を呈します。これは、血液中のヘモグロビンが消化液中の消化酵素の作用を受け、化学変化を起こすためです。ヘモグロビンは、酸素と結合している状態では鮮やかな赤色ですが、酸素が遊離すると暗赤色に変化し、さらに消化酵素や腸内細菌の作用によって黒色へと変色します。この過程で、便は独特の強い臭気を伴うこともあります。出血量が多いほど、黒色便の量も増えます。

メレナの診断

メレナと診断するには、まず便の色、粘稠度、臭気を観察します。黒色でタール状、強い臭気を伴う便はメレナを強く疑わせる所見です。さらに、血液検査で貧血の有無や、便潜血検査で血液の有無を確認します。従来はグアヤック法が用いられていましたが、現在では、ヒトヘモグロビンに対するモノクローナル抗体を用いた、より特異性の高い検査が主流となっています。グアヤック法では、肉類や鉄剤の服用などによって偽陽性となる可能性があるためです。内視鏡検査（上部消化管内視鏡検査など）を行うことで、出血部位の特定や原因疾患の診断につながります。

メレナの様々な原因

メレナの原因は多岐に渡り、消化器系の疾患、薬剤、食生活などが考えられます。

疾患による原因:

上部消化管疾患: 食道静脈瘤、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌、食道癌など。これらの疾患は、消化管粘膜の損傷によって出血を引き起こします。
小腸・大腸疾患: 小腸腫瘍、大腸憩室炎、大腸癌など。特に、上行結腸からの出血では黒色便となります。
その他: マロリー・ワイス症候群（食道裂傷）、びらん性食道炎、鼻出血（鼻血を飲み込んだ場合）など。

薬剤による原因:

鉄剤: 鉄剤の服用は、便を黒色に変色させることが知られています。
ビスマス製剤: 制酸剤などに含まれるビスマス製剤も、便の色を黒くする可能性があります。

食生活による原因:

鉄分を多く含む食品: 赤身肉、レバー、ほうれん草など。
血液を含む食品: ソーセージ、血の入った料理など。
イカスミ: イカスミ料理の摂取も、便を黒くすることがあります。

メレナの鑑別診断

メレナと似た症状を示す疾患として、以下のようなものがあります。

新生児メレナ: ビタミンK欠乏症による出血傾向
胃潰瘍・胃癌: 胃からの出血
膵頭部癌: 膵臓からの出血
小腸腫瘍・小腸動静脈奇形: 小腸からの出血
* 大腸癌・大腸憩室炎: 大腸からの出血（ただし、右側結腸からの出血では黒色便となる可能性があります）

これらの疾患とメレナを区別するためには、詳細な病歴聴取、身体診察、そして内視鏡検査などの画像診断が不可欠となります。

まとめ

メレナは、消化管からの出血を反映する重要な症状であり、その原因は多様であるため、適切な診断と治療には専門医の診察が不可欠です。黒色便を認めた場合は、速やかに医療機関を受診することをお勧めします。

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