メンデルスゾーン奨学金

メンデルスゾーン奨学金（英語: Mendelssohn Scholarship、ドイツ語: Mendelssohn-Stipendium）は、作曲家フェリックス・メンデルスゾーンの偉大な功績を称え、若手音楽家の育成を目的として設立された奨学金です。この名称を持つ奨学金は、ドイツとイギリスにそれぞれ独立して存在しており、共通の起源を持ちながら異なる道を歩んできました。

設立の経緯

奨学金の構想は、1847年にメンデルスゾーンがこの世を去った後、彼の友人や支持者たちによってロンドンで立ち上げられました。彼らは、メンデルスゾーンが1843年に設立に関わったライプツィヒ音楽院で学ぶための奨学金制度の創設を目指しました。そのための資金集めとして、著名なソプラノ歌手ジェニー・リンドを招き、メンデルスゾーンのオラトリオ「エリヤ」の演奏会が1848年に開催されるなど、活発な活動が行われました。

当初の計画では、ロンドンとライプツィヒが連携して奨学金を運営する予定でしたが、この協力関係は実現に至りませんでした。その結果、ロンドンとライプツィヒ（後のドイツ）に、それぞれ独自のメンデルスゾーン奨学金が設立されることになったのです。

ドイツのメンデルスゾーン奨学金

ドイツにおけるメンデルスゾーン奨学金は、1870年代にプロイセン州からの資金提供を受けて設立されました。この資金提供は、メンデルスゾーン家がフェリックスの自筆譜を州に寄贈した際に交わされた合意の一部として行われたものです。設立当初は、外国人学生がライプツィヒ音楽院で学ぶことを支援する目的を持っていました。最初の奨学生には作曲家のエンゲルベルト・フンパーディンクが選ばれ、彼はこの支援を受けて1879年にイタリアへの旅行を実現しました。

ユダヤ系の作曲家であるメンデルスゾーンの名を冠するこの奨学金は、1934年にナチス政権によって中断されるという悲劇的な時期も経験しました。しかし、第二次世界大戦後、1963年に東ドイツの文化省によって復活を果たし、現在では作曲と演奏の二つの部門で毎年奨学生が選ばれる主要な音楽奨励制度の一つとなっています。現在の運営は、ドイツのプロイセン文化財団（Stiftung Preußischer Kulturbesitz, SPK）が担っています。

エンゲルベルト・フンパーディンクの他、ピアニストのヴィルヘルム・ケンプや作曲家のクルト・ヴァイルなど、ドイツ国内外で活躍する多くの著名な音楽家がこの奨学金の受給者リストに名を連ねています。

イギリスのメンデルスゾーン奨学金

イギリスのメンデルスゾーン奨学金は、1848年の「エリヤ」公演で得られた収益を基盤としています。この基金は投資によって拡大され、1856年に最初の奨学生として作曲家のアーサー・サリヴァンが選出されました。奨学金の運営を担う「メンデルスゾーン奨学基金」は、1871年に正式な信託証書によって設立されました。この基金は、王立音楽アカデミーと密接な関係を持ちながら、設立者の意向に沿う形で、性別を問わず若い音楽学生の教育を支援することを慈善目的として掲げています。運営に関わる信託者には、作曲家のアンソニー・ペインやジャスティン・コノリー、王立音楽アカデミーの学長などが名を連ねています。

歴代の受賞者には、初代のアーサー・サリヴァンをはじめ、フレデリック・コーダー、ジョージ・ダイソン、マルコム・アーノルド、ケネス・レイトン、ブライアン・ファーニホウなど、イギリス音楽界において重要な役割を果たした作曲家や演奏家が多く含まれており、その歴史を通じてイギリスの音楽教育と発展に貢献してきました。

このように、メンデルスゾーン奨学金は、共通の敬愛する音楽家への思いから生まれながらも、それぞれの国の歴史や文化の中で独自の発展を遂げ、今日に至るまで多くの才能ある音楽家を支援し続けています。

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