モネラ界

モネラ界（モネラかい）

モネラ界は、かつて生物をその性質に基づいて分類する際に用いられた最上位の区分（界）の一つです。特に、生物学者のロバート・ホイッタカーが1969年に提唱した「五界説」において、生物界を動物、植物、菌、原生生物、そしてモネラの五つの界に分類した際に採用されました。この分類体系では、地球上のあらゆる生物をこれらの五つの大きなグループのいずれかに位置づけることが試みられました。

特徴と歴史

モネラ界に属するとされたのは、細胞内に核膜で覆われた明確な核を持たない原核生物と呼ばれる生物群です。これには、いわゆる細菌（バクテリア）の他、かつて植物の一部として扱われた藍藻類（シアノバクテリア）などが含まれていました。モネラ界という概念自体は、1956年に他の原生生物とは異なる特徴を持つこれらの生物群を独立させる形で提唱され、その後、ホイッタカーの五界説において原核生物全体を含む分類群として広く受け入れられるようになりました。

生物学者のリン・マーギュリスによる分類体系では、モネラ界はさらに以下の16の門に細分化されていました。

アフラグマバクテリア門
発酵細菌門
スピロヘータ門
硫黄細菌門
メタン細菌門
嫌気性光合成細菌門
シアノバクテリア門
黄緑色細菌門
窒素固定好気性細菌門
シュードモナス門
好気性内生胞子形成細菌門
ミクロコッカス門
化学合成細菌門
オムニバクテリア門
放線菌門
粘液細菌門

このリストからもわかるように、細菌の多様なグループだけでなく、古細菌（後に細菌とは大きく異なることが判明）などもこの枠組みの中で扱われていました。

分類概念の終焉

しかし、1970年代後半以降、分子生物学の手法、特にDNAやRNAの遺伝情報に基づいた系統解析が発展すると、モネラ界という単一の分類群の妥当性に疑問が投げかけられるようになります。遺伝子レベルでの詳細な比較により、原核生物は系統的に見て互いに大きく異なる二つのグループ、すなわち真の細菌（Bacteria）と古細菌（Archaea）に分けられるべきであることが明らかになったのです。古細菌は、細胞壁の成分や遺伝子発現のメカニズムなど、細菌とは根本的に異なる特徴を持つことが判明し、むしろ真核生物（細胞に核を持つ生物）に近い特徴も併せ持っていることがわかってきました。

この分子生物学的な発見は、原核生物を単一の「モネラ界」としてまとめて扱うことが系統関係を正確に反映していないことを示しました。結果として、モネラ界の分類概念は学術的な妥当性を失い、解体されることとなりました。現在では、生物の分類は細菌、古細菌、真核生物の三つのドメイン（領域）を最上位とする体系が主流となっており、モネラ界という用語が、現行の分類体系において正式な分類群として用いられることはありません。

現在の扱いと名残

現代の学術界では、モネラ界という言葉は主に生物学史を論じる文脈や、高等学校や大学の入門レベルの教育において、過去の分類体系を説明する際に限定的に使用されるに留まっています。ただし、モネラ界に含まれていた個々の生物群の中には、系統樹上の位置づけは変わったものの、スピロヘータ門やシュードモナス属のように、現在でも分類名として使われ続けているものが多数存在します。

かつてモネラ界に分類されていた生物の例としては、以下のようなものが挙げられます。

大腸菌 ( _Escherichia coli_ )
乳酸菌 ( _Lactobacillus_ 属など)
納豆菌 ( _Bacillus subtilis_ )
ブドウ球菌 ( _Staphylococcus_ 属)
古細菌（例：メタン菌、高度好塩菌など）
マイコプラズマ
グラム陽性菌（グラム染色性による区別）
コレラ菌 ( _Vibrio cholerae_ )
* シアノバクテリア（旧称：藍藻）

これらの生物は、現在では細菌または古細菌のいずれかのドメインに明確に分類されています。

（参考文献：「五つの王国」リン・マーギュリス、カーリーン・V・シュヴァルツ 著）

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