モロ民族解放戦線

モロ民族解放戦線（MNLF）とは

モロ民族解放戦線（Moro National Liberation Front; MNLF）は、フィリピンのイスラム教徒によって構成される政治組織です。イスラム協力機構（OIC）にもオブザーバーとして参加しています。かつてはフィリピンからの分離独立を求める武装勢力でしたが、1996年の和平協定以降、2018年までイスラム教徒ミンダナオ自治地域（ARMM）の政府として機能していました。

「モロ」という名称は、スペイン語でムーア人（レコンキスタ時代のイスラム教徒の総称）を指し、スペイン人がフィリピンの先住民にも適用したことが由来です。その後、タガログ語では「ムスリム」を意味するようになりました。

歴史

MNLFの結成と勢力拡大

MNLFは1970年、ヌル・ミスアリ氏らを中心に結成されました。当初は小規模な組織でしたが、ミンダナオ島やスールー諸島を中心に勢力を拡大し、最盛期には3万人以上のゲリラ兵を擁するまでになりました。1970年代には誘拐事件などを通じて資金を獲得し、1975年には日本人旅行者の誘拐事件や、船舶の乗っ取り事件など、日本人が巻き込まれる事件も発生しました。1976年には、フィリピン航空の旅客機ハイジャック事件も発生しています。

和平交渉と組織の分裂

1976年、マルコス政権はリビアの仲介を得て、MNLFとの間でミンダナオやスールー諸島の14州の自治を約束するトリポリ協定を締結しました。しかし、この協定への対応を巡り、内部対立が激化し、1977年にはミスアリ派、サラマト派（後のモロ・イスラム解放戦線）など複数の派閥に分裂しました。ヌル・ミスアリ氏が率いるMNLFは、過激な分派との競合の中で勢力を衰退させていきました。また、トリポリ協定も、MNLFが自治区編入の是非を問う住民投票を拒否したため、事実上破棄され、戦闘が再開されました。

1986年の人民革命とマルコス政権崩壊後、コラソン・アキノ政権下でイスラム教徒の自治を盛り込んだ新憲法が制定され、宥和政策がとられました。1989年の住民投票の結果、イスラム教徒が多数派となる4州が自治を受け入れ、翌年にムスリム・ミンダナオ自治区（ARMM）が発足しました。しかし、MNLFはトリポリ協定で約束された完全自治を求め、この結果を拒否し、武力闘争を継続しました。

和平合意と更なる分裂

フィリピン政府はMNLFへの掃討作戦を強化しましたが、国内情勢の安定化のため、イスラム諸国会議機構の仲介で1993年に暫定的な停戦合意が成立しました。3年間の和平交渉を経て、ミンダナオ南部などの14州に暫定的な行政機関である南フィリピン和平開発評議会（SPCPD）の設立、MNLF兵士の国軍統合、ヌル・ミスアリ氏をARMM知事選の与党候補とすることなどで合意しました。これにより、政府とMNLFの和平交渉は合意に至りました。

しかし、SPCPDにおいてもARMMに参加しない残りの州の自治権が保証されなかったため、この結果に反発した多くの兵士がモロ・イスラム解放戦線（MILF）やアブ・サヤフなどの組織に合流し、MNLFの軍事力は著しく衰退しました。

ミスアリの失脚と組織の分裂

軍事的には弱体化したMNLFでしたが、ARMMにおける投資分配を独占するミスアリ氏の影響力は依然として強大でした。アロヨ政権は、2001年のARMM知事選でミスアリ氏と対立する副議長パロウク・フシン氏を支援しました。これに対し、ミスアリ派は2006年にホロ島の国軍基地を襲撃して武装蜂起しましたが鎮圧され、ミスアリ氏は逮捕されました。親政府派のフシン新知事体制が成立したものの、MNLF内部には依然としてミスアリ氏を支持する勢力が存在し、組織は事実上の分裂状態が続いています。

モロ・イスラム解放戦線主導の和平

2012年10月、フィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線（MILF）との間でミンダナオ和平に関する「枠組み合意」が署名され、2014年3月に調印されました。2016年までに新たなバンサモロ自治政府を創設する予定でしたが、この和平合意はMILFが主導権を握っており、MNLFは反発しています。

2013年の交戦

2013年9月9日、MNLFのミスアリ派部隊がサンボアンガ市内に侵入し、沿岸部の集落を占拠して住民を人質に取り、フィリピン軍と交戦しました。この襲撃は、和平を主導するMILFへの反発が背景にあるとされています。一連の戦闘により、サンボアンガの住民の約1割、10万人が避難し、MNLF側183人以上、政府側34人以上が死亡しました。また、MNLF側は300人前後の拘束者を出し、大きな打撃を受けました。ヌル・ミスアリ氏は、停戦交渉の仲介のためにサンボアンガに赴いたまま行方不明となっています。

現在のMNLF

MNLFは、組織が分裂し、影響力を失いつつあります。しかし、一部にはミスアリ氏を支持する勢力が残っており、フィリピン政府との関係は複雑な状況が続いています。

参考資料

MNLF Home Page - ウェイバックマシン（2009年2月25日アーカイブ分）
公安調査庁 - モロ民族解放戦線
* 『モロ民族解放戦線』 - コトバンク

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