モン・クメール語派

モン・クメール語派（Mon-Khmer languages）は、主に東南アジアのインドシナ半島とその周辺地域に分布する、多様な言語からなるグループです。

この語派には、話者人口が非常に多いベトナムの公用語であるベトナム語や、カンボジア王国の公用語であるクメール語、そしてミャンマーやタイに住むモン族によって話されるモン語などが含まれます。しかし、これらの大きな言語を除けば、モン・クメール語派に属する言語の多くは、比較的小規模な少数民族によって話されています。

系統と歴史的背景

モン・クメール語派の言語は、この地域に後に広まったタイ・カダイ語族やシナ・チベット語族といった主要な語族よりも、古い言語層に属すると考えられています。この語派は、遠く離れたインド東部に分布するムンダ語派と共に、より大きな言語系統であるオーストロアジア語族を構成すると広く認識されています。

分類に関する近年の議論

オーストロアジア語族におけるモン・クメール語派の位置づけや、その内部構造に関する分類については、近年の言語学研究で新たな視点が提示され、活発な議論が行われています。例えば、研究者によっては（Diffloth 2005など）、従来のモン・クメール語派の範囲をより限定的に捉え直そうとする動きがあります。また、別の提案（Peiros 1998など）では、モン・クメール語派を独立したグループとして扱うのではなく、ムンダ語派と統合するなど、オーストロアジア語族全体を再構築すべきだという見解も示されています。これらの議論は、言語間の歴史的な関係性をより正確に明らかにするための試みとして続けられています。（オーストロアジア語族の#下位分類も参照されることをお勧めします）

音声的特徴：声調の有無

モン・クメール語派に属する言語の多くは、声調を持たない（非声調言語）という特徴を持っています。しかし、例外的にベトナム語を含むベト・ムオン語群は声調言語として知られています。これは、この語群が長期間にわたり、隣接するタイ・カダイ語族や中国語といった声調を持つ言語からの強い影響を受けた結果として、声調を発達させたと考えられています。

主な下位分類

モン・クメール語派は、以下のようないくつかの下位語群に分類されます。これは主に言語学者テット・V・ディフロス（Tet V. Diffloth）による分類（1974年のブリタニカ百科事典に基づくもの）に、その後の研究で明らかになった知見を加味したものです。

東部語群（Eastern）: カンボジアの公用語であるクメール語（話者約2000万人）、カンボジア南部のペアール語群、ベトナム・カンボジア・ラオスに分布するバナール語群、ラオス中部のカトゥ語群、そしてベトナム語（話者約8000万人）とムオン語を含むベト・ムオン語群などが含まれます。ベト・ムオン語群をモン・クメール語派から独立した語派と見なす考え方もあります。
北部語群（Northern）: インド北東部のメーガーラヤ州で話されるカシ語、ミャンマー・中国国境付近やタイ北部などに分布するパラウン語群、ラオス北部のクム語群、中国やベトナムのマン語、中国のPalyuなどが含まれます。
* 南部語群（Southern）: ミャンマーやタイのサルウィン川下流域を中心に約100万人に話されているモン諸語（代表はモン語）、マレー半島のアスリ諸語（ジャハイ語、セノイ語など）、インド領ニコバル諸島で話されるニコバル諸語が含まれます。その他、中国南部にも少数の言語（Buganなど）が分布します。

モン・クメール語派は、地理的にも言語構造の上でも極めて多様性に富むグループであり、東南アジアの言語史や文化を理解する上で重要な研究対象となっています。その系統関係や内部の分類に関する研究は、現在も続けられています。

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