モーブ

モーブ：世界初の工業的合成染料

モーブ（Mauve）は、1856年にウィリアム・パーキンによって発見され、工業的に生産された世界初の合成染料です。モーベイン（Mauveine）やアニリンパープルと呼ばれることもあり、鮮やかな紫色の色素で、アニリン染料の一種です。モーブの名前は、フランス語でゼニアオイを意味する「mauve」に由来します。

モーブ以前の染料

モーブが発見される以前にも、合成染料の試みは存在しました。フリードリープ・フェルディナント・ルンゲがコールタールから抽出したキアノールや、パーキンの指導者であったアウグスト・ヴィルヘルム・フォン・ホフマンがアニリンから合成した染料などが挙げられます。しかし、これらの染料は実用化には至らず、モーブが「工業的に生産された世界初の合成染料」としての地位を確立しました。

モーブ発見の歴史

当時、王立化学大学でホフマンに師事していたパーキンは、イースター休暇中に自宅の実験室でキニーネの合成を試みていました。当時の分子構造の概念が未熟だったため、パーキンはキニーネの分子式を元に、アリルトルイジンを酸化すれば合成できると考えました。しかし、クロム酸で酸化した結果、得られたのは褐色のタール状混合物でした。

次に、パーキンはアニリンを同様の方法で処理したところ、黒色のヤニ状の物質が得られました。これをエタノールに溶かすと、鮮やかな紫色の溶液が現れました。当時のヨーロッパでは、紫色の染料は高価な貝紫しか知られていなかったため、パーキンはこの溶液を染料として利用することを思い立ちました。彼は、この溶液が絹を染色できること、綿も前処理をすることで染色可能であること、そして染料として十分な耐候性があることを発見しました。

パーキンは、この染料の特許を取得し、1857年に工場を設立してモーブの製造を開始しました。1862年にはロンドン万国博覧会で、ヴィクトリア女王がモーブで染めた絹のガウンを着用し、ヨーロッパ中で大きな話題となりました。しかし、イギリスでは保守的な染料業者が多く、評価は高くありませんでした。また、直後にフクシンという類似のアニリン染料が発見されたこともあり、モーブは大きな商業的成功を収めたとは言えません。

モーブの構造

モーブを構成する色素であるモーベインは、主にモーベインAとモーベインBの2種類の混合物です。これらのモーベインの構造は、1994年の原サンプルの分析によって確定しました。それまでの構造は誤っていたことが判明しました。さらに、2007年には新たにモーベインB2とモーベインCが発見されました。

パーキンが使用したアニリンには、かなりの量のトルイジンが含まれていました。そのため、モーベインの構造中にはトルイジンに由来するメチル基が存在します。モーベインAは、アニリン2分子とo-トルイジン1分子、p-トルイジン1分子が結合した分子式C26H23N+4X-（Xは対イオン）の物質です。モーベインBは、アニリン1分子とo-トルイジン2分子、p-トルイジン1分子が結合した分子式C27H25N+4X-の物質です。

参考文献

モーブ (色))

関連項目

モーブ (色)

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