ヤズィード1世

ヤズィード1世：ウマイヤ朝のカリフ、その生涯と遺産

ヤズィード1世（646年頃 - 683年）は、ウマイヤ朝の第2代カリフとして、680年から683年まで在位しました。彼は、イスラームの歴史において初めてカリフの地位を世襲によって継承した人物として知られています。彼の治世は、カルバラーの戦いやメッカ包囲など、多くの論争と混乱を招きました。

生い立ちと出自

ヤズィードは、第3代正統カリフのウスマーンの治世下でシリアの総督を務めていたムアーウィヤの息子として生まれました。ムアーウィヤは、内戦に勝利してカリフとなり、676年にヤズィードを後継者として指名しました。しかし、それまで前例のなかった世襲による継承は、ヒジャーズの一部の著名なイスラーム教徒の指導者たちから反発を招きました。

カリフへの即位と反乱

680年にムアーウィヤが死去すると、ヤズィードはカリフに即位しました。しかし、イスラームの預言者ムハンマドの孫にあたるフサイン・ブン・アリーと、初代正統カリフのアブー・バクルの孫にあたるアブドゥッラー・ブン・アッ＝ズバイルは、ヤズィードの承認を拒否し続け、メッカに逃れました。その後、フサインはヤズィードに対する反乱を率いるためにイラクのクーファへ向かいましたが、カルバラーの戦いでヤズィードの軍隊によって少数の支持者とともに殺害されました。

フサインの死は多くのイスラーム教徒に動揺を引き起こし、アブドゥッラー・ブン・アッ＝ズバイルは新しいカリフを選出するための会議（シューラー）を要求しました。

反乱の鎮圧とメッカ包囲

ヤズィードは、下賜品や使節団を通してアブドゥッラー・ブン・アッ＝ズバイルとヒジャーズの住民から忠誠を確保しようとしましたが、交渉は失敗に終わりました。そこで、ヤズィードは反乱を鎮圧するために軍隊を派遣しました。ヤズィードの軍隊は、683年8月に起こったハッラの戦いでマディーナの住民を打ち破り、その後メッカを数週間にわたり包囲しました。しかし、包囲戦の最中の683年11月にヤズィードは死去しました。

死去と後継者争い

ヤズィードの死の知らせを受けた軍隊はシリアへ撤退し、その結果としてイスラーム国家は9年にわたり続いた第二次内乱として知られる混乱期に入りました。最終的にこの内乱は、ヤズィードが属していたスフヤーン家に代わりウマイヤ朝の王家となったマルワーン家の下で終結しました。

政策と評価

政策面では、ヤズィードはムアーウィヤが敷いていた分権的な統治体制を踏襲し、地方の総督と部族の有力者層に統治を委ねました。また、ビザンツ帝国に対してはムアーウィヤが開始した大規模な襲撃を取り止め、シリアの防衛体制の強化に専念しました。

しかし、自身の世襲によるカリフの地位の継承、フサインの殺害、そしてイスラームの聖地であるマディーナとメッカへの攻撃といった出来事のために、多くのイスラーム教徒からは伝統的に非合法な統治者であり暴君であったと見なされています。しかし、現代の歴史家は一般により穏健な見方をしており、東洋学者のユリウス・ヴェルハウゼンは、必要な場合にのみ実力行使に訴えていた穏やかな統治者であり、宗教的な伝統において描写されているような暴君ではなかったと指摘しています。

まとめ

ヤズィード1世は、ウマイヤ朝のカリフとして、その治世において数々の重要な出来事を経験しました。彼のカリフ位の世襲は、イスラーム世界に大きな影響を与え、その後の歴史の流れを大きく変えることになりました。彼の評価は、伝統的な見方と現代的な見方で大きく異なっており、その人物像は複雑で多面的です。

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