ヤマブキショウマ

ヤマブキショウマ（山吹升麻）

ヤマブキショウマ（学名: Aruncus dioicus var. kamtschaticus）は、バラ科ヤマブキショウマ属に分類される多年草です。春の山菜として親しまれています。

名称の由来

和名の「ヤマブキショウマ」は、葉の形がバラ科の落葉低木であるヤマブキに似ていることに由来します。「ショウマ」は、本来サラシナショウマなどの植物の根茎を乾燥させた生薬名で、葉が麻に似ていること、サラシナショウマを食べると精がつくとされることに由来します。

地方によっては「ジョンナ」という山菜名で呼ばれることもあります。また、中国植物名では「假升麻」と表記されます。

分布と生育環境

ヤマブキショウマは、北海道から九州にかけて分布し、山地の山道沿い、沢沿い、斜面、雑木林の縁、草地、岩場など、多様な環境に生育します。湿り気のある場所であれば、日陰から日当たりの良い場所まで適応します。特に、崖のような場所よりも、なだらかな草地に大きな株が点在することが多いです。基本種は北半球の温帯地域に広く分布しています。

形態・生態

ヤマブキショウマは、太く分枝した地下根茎を持ちます。多くは株立ちし、茎には多少の毛があり、高さは30cmから100cm程度に成長します。葉は茎に数個互生し、2回3出複葉で、小葉は長さ3cmから10cm程度の卵円形、先は尾状に細長く尖り、縁には欠刻と鋸歯があります。側脈が明瞭で、斜めに平行して11本から15本あり、葉縁まで達します。

花期は6月から8月で、雌雄異株です。茎先に枝分かれした円錐状の複総状花序をつけ、花序の長さは10cmから30cm程度になり、黄白色の小さな花を多数つけます。花は直径約2.5mmで、萼は歯状に5裂し、花弁はへら形で5個、雄蕊は花弁よりも長く多数あります。雌花には子房が3個あり直立していますが、果実の時期には逆を向きます。果実は袋果で、やや革質で光沢があります。

利用

春には、茎が伸び始め、まだ葉が展開していない若芽を山菜として食用にします。採取時期は、関東地方以西の暖地では4月頃、中部地方では4月から5月、東北地方以北では5月頃が適期とされ、葉が開く前に柔らかい若芽を折り取るように採取します。群生していることが多いため、大量に採取できることもあります。

若芽は、トリアシショウマ（ユキノシタ科）と混生していることがあり、山菜採り初心者は間違えやすいですが、ヤマブキショウマは総じて緑色で無毛であるのに対し、トリアシショウマは赤褐色であるため区別できます。

調理方法としては、特有の歯触りを活かすために軽く茹でて水にさらし、おひたし、ごまやクルミなどの和え物、バター炒めなどにしたり、生のまま天ぷらにします。和え物には、辛子味噌やごま味噌などのコクのある味が合うとされています。また、みそ漬けや塩漬けにして保存することも可能です。

類似植物との識別

ヤマブキショウマは、葉や花がユキノシタ科のトリアシショウマによく似ています。若い芽のうちは、トリアシショウマは茎が赤褐色で毛が生え、茎先が鳥の足状に3つに分枝するのに対し、ヤマブキショウマは茎が緑色で毛がなく、数段に分枝します。生育環境や花期が同じであるため、成長すると見分けがつきにくくなります。

しかし、ヤマブキショウマは側脈が平行して葉の縁まで達し、その様子がはっきりしている点で、トリアシショウマや同属のアカショウマとは異なります。また、ヤマブキショウマの雌花の心皮は3個であるのに対し、トリアシショウマとアカショウマは2個である点も異なります。

分類

ヤマブキショウマには、以下の変種があります。

ミヤマヤマブキショウマ (Aruncus dioicus (Walter) Fernald var. astilboides (Maxim.) H.Hara): 岩手県早池峰山の特産。小型で葉に光沢があり、葉先は尾状に伸びません。
シマヤマブキショウマ (Aruncus dioicus (Walter) Fernald var. insularis H.Hara): 伊豆七島の特産。苞、萼片、花弁、花柱が長いです。
アポイヤマブキショウマ (Aruncus dioicus (Walter) Fernald var. subrotundus (Tatew.) H.Hara): 北海道アポイ岳の特産。小葉が広楕円形で葉質が厚く硬く、葉先が尾状に伸びません。絶滅危惧II類に指定されています。

参考文献

門田裕一監修、永田芳男写真、畔上能力編『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花（増補改訂新版）』山と溪谷社、2013年。
佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編『日本の野生植物 草本II 離弁花類』平凡社、1982年。
清水建美、木原浩『山溪ハンディ図鑑8 高山に咲く花』山と溪谷社、2002年。
高橋秀男監修 田中つとむ・松原渓著『日本の山菜』学習研究社〈フィールドベスト図鑑13〉、2003年4月1日。
戸門秀雄『山菜・木の実 おいしい50選』恒文社、2007年4月16日。
牧野富太郎原著、大橋広好・邑田仁・岩槻邦男編『新牧野日本植物圖鑑』北隆館、2008年。
山口昭彦『山菜ガイドブック』永岡書店、2003年。

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