ユハ・カンクネン

ユハ・カンクネン：ラリー界の帝王

ユハ・マッティ・ペレルヴォ・カンクネン。この名は、世界ラリー選手権(WRC)の歴史に深く刻まれた、フィンランド出身の伝説的ドライバーの名です。1959年生まれのカンクネンは、WRCで4度のドライバーズタイトル(1986年、1987年、1991年、1993年)を獲得。コリン・マクレーが1995年にタイトルを獲得するまで、最年少チャンピオンの記録を保持していました。さらに、セバスチャン・オジェが2020年まで達成するまで、プジョー、ランチア、トヨタという3メーカーでチャンピオンを獲得した唯一のドライバーであり続けました。グループBとグループAという異なるレギュレーションの時代で、いずれもチャンピオンに輝いたのも彼の大きな功績です。

華麗なるキャリア

カンクネンは、ユヴァスキュラの農家で育ち、1978年にラリーデビュー。1979年にはWRCに初参戦を果たします。トヨタ、プジョー、ランチア、そして再びトヨタと、トップチームを渡り歩き、常に世界のトップドライバーとして活躍しました。

1985年、サファリラリーでの初優勝を皮切りに、1986年にはプジョーで、激しいタイトル争いを制し念願の初タイトルを獲得します。続く1987年にはランチアに移籍し、2年連続チャンピオンという偉業を達成。ランチア時代にはチームメイトとのタイトル争いやチームマネージャーとの確執といったドラマもありました。その後、トヨタへ戻り、1989年にはオーストラリアで優勝。さらに1988年には、プジョーでパリ・ダカール・ラリーにも挑戦し、総合優勝という輝かしい結果を残しています。

1990年代に入ると、ランチア復帰後、1991年には3度目の世界タイトルを獲得。1992年は年間9戦の出場ながら全戦表彰台という安定性をみせました。1993年には、トヨタに移籍し、コ・ドライバーの負傷というアクシデントを乗り越え、4度目の世界タイトルを獲得。トヨタに初のメーカータイトルをもたらすなど、その活躍は目覚ましいものでした。

その後も、フォード、スバル、ヒュンダイと活躍の場を広げ、1999年にはスバルでアルゼンチンとフィンランドで優勝。2000年を最後にWRCから引退しました。しかし、2010年にはラリー・フィンランドにスポット参戦するなど、ラリーへの情熱は尽きることがありませんでした。

揺るがない実力と独特のスタイル

カンクネンの強さは、その安定性とミスが少ないドライビングにあります。決して派手な走りではありませんでしたが、どんな状況でも着実にポイントを獲得し、それが4度のチャンピオン獲得につながりました。しかし、マシン開発にはあまり熱心ではなく、テストドライバーのセッティングを信頼するなど、独特のスタイルを持っていました。また、北欧ドライバー特有のグラベル路面を得意とし、ミックスサーフェスのラリーでは、前半のターマックで遅れていても、後半のグラベルで一気に順位を上げるという戦略的な走りも見せていました。

一方で、トヨタ時代のリストリクター違反事件や、チームメイトとの確執など、様々なエピソードも残しています。しかし、それらの困難を乗り越えて、彼は常にトップレベルで戦い続けました。2022年には、水素エンジン仕様のトヨタGRヤリスをドライブするなど、ラリー界への貢献を今も続けています。

プライベート

カンクネンは葉巻好きとしても知られています。現在はモナコに在住していますが、フィンランドに広大な農場と自動車コレクションを所有しています。父と弟もラリードライバーで、息子の一人ティモもレーサーとして活躍しています。

ユハ・カンクネンは、その卓越したドライビングテクニック、安定性、そして豪快なキャラクターで、多くのファンを魅了した、真のラリー界の帝王でした。彼の功績は、これからも語り継がれていくことでしょう。

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