ユージン・イストミン

ユージン・ジョージ・イストミンは、1925年11月26日から2003年10月10日まで生きた、20世紀後半のアメリカを代表する偉大なピアニストの一人です。ニューヨーク市に、ロシア系ユダヤ人の家庭に生まれた彼は、幼い頃から非凡な音楽的才能を示しました。わずか6歳で母親と共に公開演奏を始め、神童として注目を集めます。12歳という若さで、クラシック音楽教育の最高峰とされるカーティス音楽学校に入学を許可され、ルドルフ・ゼルキンやミエチスワフ・ホルショフスキといった、当時の著名な教育者でありピアニストであった巨匠たちの指導を受けました。

1943年は、イストミンにとってキャリアを決定づける重要な年となりました。この年、彼は権威あるレーヴェントリット賞とフィラデルフィア青年賞という二つの主要な音楽賞を受賞します。受賞の勢いを借りて、同年にはプロのピアニストとしての本格的なデビューを果たしました。まず、ユージン・オーマンディが指揮するフィラデルフィア管弦楽団との共演でショパンのピアノ協奏曲を披露し、聴衆や批評家から高い評価を得ます。さらに、ニューヨークでのデビューも同年に行われ、アルトゥール・ロジンスキ率いるニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団と共に、ブラームスの広大で難解な《ピアノ協奏曲第2番》に挑戦し、その卓越した技術と深い音楽性を証明しました。

イストミンは、その長い音楽人生において、特に室内楽の分野でその名声を確立しました。ヴァイオリニストのアイザック・スターン、チェリストのレナード・ローズという二人の巨匠と共に結成したピアノ三重奏団は、「スターン・トリオ」として世界的に知られ、20世紀後半のクラシック音楽界における室内楽演奏の金字塔の一つと見なされています。このトリオとして、またスターンとのヴァイオリンとピアノのためのデュオとして、彼は数多くの歴史的な録音を残しました。彼らの演奏は、とりわけベートーヴェン、シューベルト、ブラームスといった作曲家たちの作品において、その構造的な理解と情感豊かな表現が見事に融合している点で高く評価されています。スターン・トリオによるベートーヴェンのピアノ三重奏曲全集の録音は、1970年にグラミー賞を受賞するなど、その質の高さは広く認められました。

室内楽での輝かしいキャリアに加え、イストミンは独奏ピアニストとしても積極的に活動を展開しました。彼は、現代音楽にも深い関心を持ち、ロジャー・セッションズ、アンリ・デュティユー、ネッド・ローレムといった当時の著名な作曲家たちに新たなピアノ作品の創作を委嘱し、それらの重要な作品の世界初演を数多く務めました。これにより、彼は現代音楽の普及と発展にも貢献しました。オーケストラとの共演においても、ユージン・オーマンディやブルーノ・ワルターといった伝説的な指揮者たちと共に舞台に上がり、協奏曲のソリストとして、その存在感を示しました。

国際的な活動も活発で、日本へは1956年に初めて訪れ、各地で演奏会を行う日本縦断ツアーを実施しました。彼の演奏は日本の聴衆にも強い感銘を与えました。私生活では、1975年2月15日に、偉大なチェリストであったパブロ・カザルスの未亡人であるマルタ・モンターニェスと結婚しました。1980年には、生活の拠点をワシントンD.C.に移しています。

イストミンは、演奏活動だけでなく、音楽啓蒙活動にも熱心でした。例えば、ロシアの作曲家ニコライ・メトネルのピアノソナタ全集の楽譜がロシア国外で初めて出版される際に、その序文を執筆しています。これは、あまり知られていない優れた音楽作品を世界に紹介しようとする彼の姿勢を示すエピソードと言えるでしょう。キャリア晩年の1980年代から1990年代にかけては、特筆すべき活動として、自身の愛用するコンサートグランドピアノと専属のピアノ調律師を帯同し、アメリカ国内の30都市以上を巡る大規模な演奏旅行を敢行しました。このユニークな試みは、地方都市の聴衆に最高の状態で自身の音楽を届けたいという彼の強い思いから生まれたものです。

長年の音楽界への多大な貢献が認められ、2001年にはフランス政府より最高勲章であるレジオン・ドヌール勲章を授与されました。晩年も精力的に活動を続け、亡くなる数年前まで、ノースフロリダにある大学など地方の教育機関で演奏を披露し、若い世代に音楽の素晴らしさを伝えていました。2003年10月10日、ユージン・イストミンはワシントンD.C.の自宅にて、肝臓癌のため77歳で静かにその生涯を閉じました。彼は、室内楽における金字塔を打ち立てると同時に、独奏者、現代音楽の擁護者、そして音楽教育者としても、20世紀後半の音楽史に確かな足跡を残しました。

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