ユースフ・ラザー・ギーラーニー

マフドゥーム・サイイド・ユースフ・ラザー・ギーラーニー氏（日本の報道ではギーラーニーまたはギラニと表記されることが多い）は、1952年6月9日に誕生したパキスタンの政治家です。パキスタン人民党（PPP）に所属し、特に2008年から2012年まで同国の首相を務めたことで知られています。現在、彼はパキスタン元老院（上院）の議長という要職にあります。

パキスタンの大都市カラチで生まれたギーラーニー氏は、ムルターン出身の著名な政治家であるマフドゥーム・アラムダー・フサイン・ギーラーニー氏を父に持ちます。父も閣僚経験者でした。学業では、パンジャーブ大学でジャーナリズムを専攻し、修士号を取得しました。

ギーラーニー氏が政界に足を踏み入れたのは1978年、ムハンマド・ジア＝ウル＝ハク将軍による軍事政権下でのことでした。当初はパキスタン・ムスリム連盟（PML）の一員として活動していましたが、1988年にはベーナズィール・ブットー氏が率いるパキスタン人民党（PPP）に移籍します。この間、彼は住宅省、鉄道省、観光省など、複数の閣僚ポストを歴任しました。また、ブットー政権時代にあたる1993年から1997年にかけては、国民議会（下院）議長も務めました。

2001年、当時のパルヴェーズ・ムシャラフ軍事政権下で、ギーラーニー氏は汚職の容疑をかけられ、逮捕されました。この結果、彼は約5年間、自由を奪われることとなります。この経験は、彼の政治キャリアにおける大きな試練となりました。

長年の政治的苦難を経て、2008年に転機が訪れます。ベーナズィール・ブットー氏の暗殺後に行われた国民議会総選挙では、ムシャラフ政権に反対する野党勢力が多数派を形成しました。この結果、ギーラーニー氏は2008年3月24日にパキスタン首相に選出され、翌日正式に就任しました。彼の首相在任中、パキスタンの政治体制は大きな変化を遂げます。2010年の憲法改正（第18次憲法改正）により、パキスタンは半大統領制から議院内閣制へと移行し、行政府の長としての首相の権限が強化されました。

しかし、彼の首相としての任期は予期せぬ形で終わりを迎えます。2012年、アースィフ・アリー・ザルダーリー大統領（当時）の汚職疑惑に関連し、パキスタン最高裁判所は関連訴追を進めるよう命じました。ギーラーニー首相がこの最高裁の判断に従うことを拒否したため、彼は法廷侮辱罪で起訴されます。2012年4月26日、有罪判決を受けたギーラーニー氏は、同年6月19日に首相職を退任せざるを得なくなりました。

2017年4月、公民権停止処分が解除されたことを受け、ギーラーニー氏は再びパキスタン国政の舞台に戻ってきました。2021年には元老院（上院）議員選挙で当選を果たし、同年から2022年にかけて野党院内総務として活動しました。その後、2024年2月末には国民議会（下院）議員に一時的に転じましたが、わずか1ヶ月あまりで再び上院に戻り、2024年4月には元老院議長という極めて重要なポストに選出されました。

マフドゥーム・サイイド・ユースフ・ラザー・ギーラーニー氏は、閣僚、下院議長、首相、そして上院議長と、パキスタンにおける主要な政治的要職を歴任してきたベテラン政治家です。逮捕・投獄や法廷闘争など、数々の困難を乗り越えながら、常にパキスタン政治の中心で活動を続けています。特に、長期にわたる政治キャリアの中で、憲政の要職を複数務めたことは、彼の政治家としての影響力と継続的な活動力を示しています。

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