ユースフ1世 (ナスル朝)

ユースフ1世：ナスル朝グラナダを彩ったスルタン

ユースフ1世（1318年 - 1354年）は、ナスル朝グラナダ王国の第7代スルタンとして、1333年から1354年まで在位しました。兄であるムハンマド4世の暗殺後、15歳という若さで即位した彼は、当初、政治の実権を握ることができませんでした。しかし、その治世は、領土の喪失とは対照的に、建築や文化の面でナスル朝を大きく発展させた時代として知られています。

生い立ちと即位

1318年、ユースフはイスマーイール1世の息子として、アルハンブラ宮殿で生を受けました。彼の母親はキリスト教徒出身のウンム・ワラドであり、その出自は彼の治世に影響を与えたと考えられています。1333年、兄のムハンマド4世が暗殺されたことで、ユースフはスルタンの座を継ぐことになりました。しかし、若年のため、政治の実権は祖母のファーティマや大臣たちによって握られていました。

政治・軍事的な動向

即位後、ユースフ1世はカスティーリャ王国やアラゴン王国との間に和平条約を締結し、一時的に平和な時代を築きました。しかし、条約の期限が切れると、カスティーリャとの間で再び戦争が勃発。1340年のサラード川の戦いでは、ナスル朝・マリーン朝連合軍がカスティーリャ軍に大敗を喫し、多くの領土を失いました。

1342年には、戦略的に重要な港湾都市アルヘシラスがカスティーリャ王アルフォンソ11世によって包囲されます。ユースフ1世は陽動作戦を展開しつつアルヘシラスの救援に向かいますが、1344年、10年間の和平と引き換えに、アルヘシラスを無血開城せざるを得なくなりました。

1349年、アルフォンソ11世は講和条約を破り、ジブラルタルを包囲。ユースフ1世はカスティーリャへの反撃を指揮しますが、1350年、アルフォンソ11世が黒死病で死去したことで包囲は解除されました。その後、ユースフ1世はアルフォンソ11世の後を継いだペドロ1世との間で条約を結び、カスティーリャ国内の反乱鎮圧のために軍隊を派遣するなど、協力関係を築きました。

建築・文化事業

ユースフ1世の治世は、軍事的には苦難の連続でしたが、建築や文化の面では目覚ましい発展を遂げました。彼は、アルハンブラ宮殿の拡張に力を注ぎ、コマレス宮の増築や、数多くの新しい城壁、塔を建設しました。また、1349年には、グラナダに高等教育機関であるマドラサ・ユースフィーヤを設立し、イスラーム文化の中心地としての地位を確立しました。

アルハンブラ宮殿の拡張

• - バーブ・アッ＝シャリーア（裁きの門）の建設（1348年）
• - アルカサバ（城塞）へのケブラーダの塔の建設
• - コマレス宮の増築（大使の間の建設など）
• - ハンマーム（浴場）の改修
• - パルタル宮の小さな祈りの間（オラトリオ）の建設
• - ペイナドール・デ・ラ・レイナ、トレ・デ・ラ・カウティーバなどの建築または改造

文化施設の設立

• - マドラサ・ユースフィーヤの設立（1349年）
• - アル＝フンドゥク・アル＝ジャディーダ（新しいフンドゥク、現在のコラール・デル・カルボン）の建設

暗殺と遺産

1354年、ユースフ1世はイード・アル＝フィトル（断食明けの祭り）の日に、グラナダの大モスクで祈りを捧げている最中に、狂人の手によって暗殺されました。彼の死後、スルタン位は長男のムハンマド5世が継承しました。

多くの歴史家は、ユースフ1世とその息子であるムハンマド5世の治世を、ナスル朝の最盛期であったと評価しています。彼の時代には、領土の喪失という苦難を経験したものの、建築や文化の発展を通じて、ナスル朝の黄金時代を築き上げました。

ユースフ1世の遺産は、今日でもアルハンブラ宮殿をはじめとする数々の建築物や文化施設に息づいており、ナスル朝グラナダの繁栄を今に伝えています。

参考資料

• - Arié, Rachel (1973). L'Espagne musulmane au temps des Nasrides (1232–1492).
• - Catlos, Brian A. (2018). Kingdoms of Faith: A New History of Islamic Spain.
• - Harvey, L. P. (1992). Islamic Spain, 1250 to 1500.

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