ヨコヅナツチカメムシ

概要

ヨコヅナツチカメムシ（学名：Adrisa magna）は、カメムシ目ツチカメムシ科に分類される昆虫の一種です。日本に生息するツチカメムシ科の仲間の中では最も大型の種類として知られています。

特徴

成虫の体長は一般的に14mmから18mmですが、中には20mmに達する個体もいます。全身が光沢のある黒褐色で覆われています。体表面には多くの点刻があり、特に前胸背の側面や後縁部、小楯板では点刻が大きく粗くなっていますが、前翅の根元近くの革質部では細かく密に並んでいます。

触角は4節からなり、これはツチカメムシ科に典型的な5節という特徴から外れており、本種を含むヨコヅナツチカメムシ属に共通する特徴です。触角の根本側の2節は黒褐色を基調としながらも先端が黄褐色を帯び、先端側の2節は全体が黄褐色をしています。口吻も黄褐色です。単眼は淡い赤色をしています。

幅広く平たい前胸背と、二等辺三角形の小楯板を持ちます。前翅の先端は腹部の後端に達し、膜状の部分がよく発達しています。この膜質部は淡い黄色で半透明であり、黄褐色の斑紋が見られます。体の下面も大部分が濃い黒褐色で光沢がありますが、中胸と後胸の部分には光沢がありません。腹部の下面はやや膨らんでいるのが特徴です。歩脚も光沢のある黒褐色で、脛節には棘のような毛が並んでいます。跗節は3節で、細く短い褐色をしています。

「ヨコヅナ」という和名は、その大きさから相撲の横綱に例えられたものと考えられていますが、その由来を明確に記した文献は確認されていません。しかし、その大きく頑丈な体つきは、和名にふさわしいという評価も散見されます。

生態

主に照葉樹林の林床、具体的には落ち葉の下や地面の上で生活しています。地面に落ちた植物の果実や種子から口吻を差し込んで汁を吸って栄養を得ています。興味深いことに、必ずしも深い森林に限定されるわけではなく、時として都市部の小さな緑地でも発生することが確認されています。

餌となる植物は、ケンポナシ（クロウメモドキ科）、アオギリ（アオイ科）、ムクロジ（ムクロジ科）、シナサイカチやエンジュ（以上マメ科）など、落下した果実や種子です。飼育下では、ミズキ（ミズキ科）、エビヅル、ブドウ（デラウェア）（以上ブドウ科）なども吸汁したという報告があります。これらの餌植物が多様な科に属していることから、特定の植物への依存性は低い、つまり食性の選択性は比較的広いと言えます。

生活史については、和歌山県での観察例によると、成虫の姿で冬を越し、春になると活動を開始します。地面の果実などから栄養を摂取した後、5月頃に交尾行動を行います。この時期には夜間に活発に飛び回り、建物の明かりに誘引されて人家に飛来することもあります。産卵は、餌が見つかる場所の土の中に卵をばらまくように行われます。白く丸い卵は、およそ1週間で孵化します。孵化した幼虫は、親と同じように地上で果実などから吸汁して成長し、夏の終わり頃には新しい成虫が現れます。

普段はあまり目にする機会が多くない種ですが、稀に局地的に大量発生し、夜間の灯りに大挙して集まることがあります。例えば、2003年7月には東京都港区のオフィスビルで多数の幼虫が発見される出来事がありました。この時の調査では、ビルのすぐ近くにある歩道脇のわずかな緑地に生えていたアオギリなどを餌として大発生し、個体密度が高まったために幼虫が移動してビルに侵入した可能性が指摘されました。この事例は、都市部の限られた緑地でも本種が生息し、条件次第で大発生しうることを示しています。また、本種は秋に落ち葉や石の下などに集まって見つかることもあり、集団で越冬するのではないかとも考えられています。

分布

日本では、本州、四国、九州、そして対馬に分布しています。国外では、台湾、中国、東南アジアにかけて広く生息しています。

類似種

本種が属するヨコヅナツチカメムシ属には、世界で22種が記録されており、主にオーストラリア区や東洋区に分布し、一部は旧北区の南部にも見られますが、日本からはヨコヅナツチカメムシのみが知られています。

日本で見られるツチカメムシ科には、本種を含めて23種が確認されています。これらの多くは外見が似ていますが、ヨコヅナツチカメムシはその中でも圧倒的に大きいです。例えば、比較的よく見られるツチカメムシ（学名：Macroscytus japonensis）は体長が7mmから10mm程度、その他の多くの種はおおよそ5mm前後です。そのため、ヨコヅナツチカメムシはその巨大さから、他のツチカメムシと混同することはまずありません。

ただし、ベニツチカメムシ（学名：Parastrachia japonensis）は体長が16mmから19mmと、本種に匹敵する大きさになります。しかし、ベニツチカメムシは鮮やかな赤色に黒い斑紋を持つため、一目で容易に区別することができます。なお、ベニツチカメムシを別の科（ベニツチカメムシ科）に分類する説もあり、もしその分類が採用される場合、日本国内のツチカメムシ科における最大種は揺るぎなくヨコヅナツチカメムシということになります。

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