ヨーロッパの五月祭

ヨーロッパの五月祭：春の訪れを祝う古代からの祭り

ヨーロッパの五月祭は、古代ローマ時代に遡る豊穣を願う祭りが起源です。5月1日には、豊穣の女神マイアに供え物を捧げ、夏の豊かな実りを祈りました。現在では、キリスト教伝来以前からの伝統を受け継ぎ、ヨーロッパ各地で春の訪れを祝う祭りとして親しまれています。英語では「The May Festival」や「May Day」と呼ばれています。

五月祭の概要

ヨーロッパ各地では、かつて農作物の生育は精霊の力によるものと考えられていました。精霊は女神フローラやニンフ、女王、乙女といった姿で表現され、春から夏にかけての生育・繁殖期に祭りが行われました。乙女や男女の結婚は豊穣の象徴とされ、「五月女王（メイクィーン）」や子供たちによる模擬結婚式などの行事が行われるようになりました。

五月祭の前夜は「ヴァルプルギスの夜」と呼ばれ、魔女たちが集まって騒ぐサバトが行われるという言い伝えがあります。シェイクスピアの喜劇『夏の夜の夢』は、この時期を舞台にしたという説もあります。

ドイツの五月祭

ドイツ南西部のツンツィンゲンでは、12歳くらいの少女が五月祭の象徴である「天の花嫁（ウッツフェルト ブリュットリ）」に扮し、案内役の少女2人と7、8人の少女を従えて練り歩きます。お供の少女たちは籠を持ち、村の家々を訪れて天の花嫁の到来を告げ、乳製品や卵、果物などを受け取ります。天の花嫁は、感謝の言葉とともに家々を祝福します。一方、「冬」を象徴する少年たちは黒い服に縄を巻き付け、別の地区を歩いて同様に贈り物を受け取ります。その後、天の花嫁（夏）と少年（冬）は出会い、「冬」が持つブナの枝を花嫁が3本折ると、天の花嫁の勝利となります。子供たちは昼食のために一旦帰宅し、午後は再び家々を回ります。

ゲルマン神話では、天空神オーディンと女神フレイアの結婚が5月に行われ、世界の繁殖を司ると信じられていました。アウッゲンでは、少女がドレスを着て花束を持ち、少年が山高帽にモーニング姿で、家々を回り夏の訪れを告げます。これはオーディンとフレイアが地上を訪れる様子を表しているとされます。かつては、2人の少女が白い衣装を身につけ、春の女神に扮して行進していました。

フランスのアルザス地方でも、「五月のバラ（マイレースレ）」と呼ばれる女性が中心となり、同様の行事が行われます。5月はキリスト教ではマリアの月ですが、フレイア女神も春の象徴とされていました。五月女王は元々、五月の女神マヤに由来しますが、マヤ像を祝うことが異教的であるとして禁じられたため、未婚の女性が主役を務めるようになったと伝えられています。この日には、森から切り出した「メイポール（五月の柱）」を飾り、その周りを人々が踊り回ります。メイポールは、病気や悪霊を避けるために、生命と春の象徴である樹木を立てたのが始まりで、モミや白樺が用いられることが多いです。

ドイツでは、昇天祭や聖霊降臨日に五月祭を行う地域もあります。

イギリスの五月祭

イギリスでは、サンザシを飾り、朝露で顔を洗うと美しくなると言われています。古代からこの日は祭日であり、労働者の祝日であるメーデーの起源にもなっています。この日には「モリス・ダンス」と呼ばれる伝統的な踊りが行われます。6〜8人の男性グループが、黒いシルクハットに造花、白シャツと白ズボンを身につけ、緑のベルトを胸と背で交差させて踊ります。脚には鈴をたくさんつけたベルトをつけ、白いハンカチを持ちます。ムーア人起源という説もありますが、テューダー朝時代の文献にこの踊りに関する記述が見られます。

かつては、復活祭や聖霊降臨日にもモリス・ダンスが行われ、グループが家々を訪れて踊り、その祝儀を教会の基金に加えていました。弓試合や野外劇でも披露されていましたが、安息日を汚すとしてピューリタンの反発を受け、五月女王とともに衰退しました。しかし、1899年にセシル・シャープがコッツウォルズに残っていたモリス・ダンスを発見し、調査と指導を開始しました。1909年には、モリス・ダンスは学校教育に民俗舞踊として取り入れられるようになりました。

脚注

関連項目
昇天祭
聖霊降臨日
ウィッカーマン
メーデー
メーデー (曖昧さ回避)
レイ祭
少女 (湊かなえ) - 映画版の劇中にメイポールダンスが登場する。

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