ラオール・ウォルシュ

ラオール・ウォルシュ（Raoul Walsh、1887年3月11日 - 1980年12月31日）は、アメリカ合衆国を代表する映画監督、俳優、そして映画プロデューサーです。彼は、そのキャリアを通して、ギャング映画やフィルム・ノワールといった犯罪映画のジャンルで特に高い評価を受け、「犯罪映画の巨匠」として広く知られています。しかし、ウォルシュの才能はそれだけに留まらず、西部劇、戦争映画、冒険映画といったアクション映画の分野でも数々の傑作を世に送り出しました。さらに、コメディ映画、ロマンス映画、スポーツ映画など、多岐にわたるジャンルを手掛け、その幅広い才能を示した職人監督と呼べるでしょう。

ニューヨーク市で生まれたウォルシュは、本名をアルバート・エドワード・ウォルシュといい、父親はイングランド系、母親はアイルランド系でした。彼の弟であるジョージ・ウォルシュも俳優であり、兄の作品に度々出演しています。

シートン・ホール大学を卒業後、1909年に舞台俳優としてキャリアをスタートさせたウォルシュは、1913年にラオール・ウォルシュ、あるいはR・A・ウォルシュと名乗り始め、短編映画の監督も務めるようになりました。1914年には、映画監督D・W・グリフィスの助手となり、彼の代表作『國民の創生』にも出演しています。1915年にグリフィスから独立すると、フォックス・フィルムに入社し、アメリカ映画初の長編ギャング映画『復活』で長編監督デビューを果たしました。その後、15本もの映画を制作し、女優のミリアム・クーパーと結婚（後に離婚）し、彼女の主演作品も多く手掛けました。

1924年、ダグラス・フェアバンクス主演のサイレント映画『バグダッドの盗賊』で一躍その名を知られるようになったウォルシュは、その後も、『栄光』(1926年)や、グロリア・スワンソン主演の『港の女』(1928年)など、数々の話題作を手掛けました。

1928年には、自身の監督兼主演で『懐しのアリゾナ』を製作中に交通事故に遭い、右目を失明する悲劇に見舞われました。これにより監督を途中降板せざるを得なくなり、監督はアーヴィング・カミングスに、主演はワーナー・バクスターに引き継がれました。しかし、このアクシデントはウォルシュの映画制作への情熱を妨げることはなく、彼はその後も精力的に活動を続けました。

1930年には、フォックスから西部劇大作『ビッグ・トレイル』の監督を依頼され、当初はゲイリー・クーパーを主演に考えていましたが、交渉が難航したため、無名の俳優マリオン・ロバート・モリソンを主演に抜擢し、ジョン・ウェインと改名させました。この作品は興行的には失敗しましたが、ジョン・ウェインは後に大スターとなり、ウォルシュとは『暗黒の命令』(1940年)で再びタッグを組んでいます。

1933年には、20世紀ピクチャーズの第1回作品『バワリイ』で、ジョージ・ラフトがブルックリン橋から飛び降りるアクションシーンを手掛け話題を呼びました。ラフトとはその後も『夜までドライブ』(1940年)、『大雷雨』(1941年)でタッグを組んでいます。

1939年にワーナー・ブラザースに移籍すると、ギャング映画『彼奴は顔役だ!』を手掛けました。1941年には、ハンフリー・ボガートを『ハイ・シェラ』で初めて主演に抜擢し、ボガートがハードボイルドスターとなるきっかけを作りました。ボガートとはその後も『北大西洋』(1943年)や『脅迫者』(1951年)で共演しています。また、『壮烈第七騎兵隊』(1941年)では、エロール・フリンを主演に迎え、大ヒットを記録しました。ウォルシュはフリンとも多く共演しており、『鉄腕ジム』(1942年)など、計9作品に出演しています。

1949年には、フィルム・ノワールの傑作『白熱』でジェームズ・キャグニーとタッグを組み、その迫真の演技を引き出し、批評家から絶賛を浴びました。しかし、その暴力描写は議論を呼びました。

1951年には、グレゴリー・ペック主演の『艦長ホレーショ』を手掛け、大ヒットを記録しました。これをきっかけに、ウォルシュは海洋冒険ものを多く手掛け、『世界を彼の腕に』(1952年)、『海賊黒ひげ』(1952年)、『海賊船シー・デビル号の冒険』(1953年)などを制作しました。

1964年の『遠い喇叭』を最後に監督業から引退し、1980年12月31日に心臓麻痺で亡くなりました。93歳でした。ウォルシュの映画製作への情熱と才能は、多くの映画人に影響を与え、彼の作品は今もなお多くの人々に愛されています。

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