ラドゥ3世

ラドゥ3世の生涯と影響力

ラドゥ3世（Radu III、1437年/1439年 - 1475年）、通称「美男公」（cel frumos）は、ワラキア公国の歴史に名を刻む重要な人物です。彼は1462年から1475年にかけて公位にあり、特にその魅力的な容姿から「美男公」として知られています。兄のヴラド3世（ツェペシュ）とは異なり、ラドゥはオスマン帝国との関係を重視し、その立場を利用して権力を拡大しました。

生い立ちと人質生活

ラドゥは、ワラキア公国の初代公であるヴラド2世とモルダヴィアの公女ヴァシリッサの間に生まれた三男です。彼の兄には、ミルチャ2世やヴラド3世（ツェペシュ）がいます。1442年、父であるヴラド2世がオスマン帝国のスルタン・ムラト2世に捕えられる際、ラドゥは5歳の兄と共に人質として捕われました。父がスルタンへの忠誠を誓うことで解放されたのち、ラドゥは兄と共にエグリゴズに送られ、一時期、スルタンの元で小姓として仕官しました。この頃、彼は宗教的にスンニ派に改宗したとも言われています。

ワラキア公としての統治

1462年には、ラドゥはムラト2世の後任であるスルタン・メフメト2世の侵略に際して出征し、ヴラド3世の戦いを支援しました。しかし、オスマン軍が撤退した後、ラドゥは南部ブクレシュティに留まり、公位を巡る兄との競争を始めます。兄のヴラド3世がオスマンと対立したのに対し、ラドゥはオスマンとの協調を重視し、地主貴族からの支持を集めていきました。

1462年の秋、ヴラド3世が逃亡し、ラドゥはワラキア公として単独で権力を掌握することに成功します。オスマン帝国はラドゥに対し友好的であり、その結果、ワラキアへの貢納金を減額し、一定の自治権を付与しました。しかし、ラドゥは同時にハンガリー王国に対しても臣下として従い、政争を繰り広げます。

異なる勢力との対立・公位争い

この時期、ラドゥはモルダヴィアの公、シュテファン3世との対立を深めていきます。彼は特に1465年に重要な要衝であるドナウ河口のキリアをシュテファンに奪われ、その影響力が逆転する可能性も見えました。1473年には、シュテファンが新たな公としてバサラブ3世ライオタを推挙することで、ラドゥはオスマンに逃れざるを得なくなります。しかし、彼は再度権力を取り戻し、バサラブ家やシュテファネス・バートリとの三つ巴の抗争を経て、1475年には再び公位を追われます。

ラドゥ3世の legacy

ラドゥ3世の政治戦略は、オスマンとの協調とハンガリー王国への臣従という、一見矛盾した二面性を持つものでした。このような立ち位置は、彼自身の統治に大きな影響を与え、ワラキアの歴史に今なお語り継がれています。ラドゥの姿は、彼の弟ヴラド3世とは異なり、しばしば時代の流れに従った政治的取引の象徴と見なされています。彼の生涯は、ワラキアの権力闘争とオスマン帝国の影響を示す一つの縮図とされており、今後の研究においてもその重要性は変わることがないでしょう。

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