リスカム・ベイ (護衛空母)
アメリカ海軍の護衛空母リスカム・ベイ（USS Liscome Bay, CVE-56）は、第二次世界大戦中に大量建造されたカサブランカ級航空母艦の2番艦として歴史にその名を刻んでいます。艦名はアラスカ南東海岸にあるダール島沖のリスカム湾に由来します。
リスカム・ベイの建造は1942年12月9日、ワシントン州バンクーバーにあるカイザー造船所で始まりました。当初、本艦は「アミール (Ameer)」と命名され、イギリス海軍へ貸与される予定でしたが、建造途中でアメリカ海軍が取得することを決定しました。1943年4月19日にベン・モレル夫人の手で進水し、同年6月28日には「リスカム・ベイ」と正式に命名。そして7月15日に護衛空母を示す「CVE-56」の艦種記号が付与されました。最終的に、アーヴィング・ウィルトジー艦長の指揮のもと、1943年8月7日に就役を果たします。
就役後、リスカム・ベイは西海岸沿いで訓練活動を行い、実戦への準備を進めました。1943年10月21日、本艦はカリフォルニア州サンディエゴを出航し、一週間後にハワイの真珠湾に到着。追加の訓練と演習を終えると、最初の本格的な戦闘任務に就くことになります。これは、太平洋戦争中期における重要な転換点の一つであるギルバート・マーシャル諸島攻略戦（ガルヴァニック作戦）への参加でした。リスカム・ベイは第24空母部隊の一員として11月10日に真珠湾を出撃し、リッチモンド・K・ターナー少将指揮下の第52任務部隊に合流、ギルバート諸島方面へ向かいました。連合軍は特にマーシャル諸島に近いマキンに注目しており、真珠湾からの北方攻撃部隊と第27歩兵師団がマキン攻略を担当することになっていました。この作戦には、大型空母や軽空母を中核とする複数の機動部隊に加え、リスカム・ベイを含む8隻もの護衛空母が投入され、大規模な航空支援が計画されていました。
1943年11月20日、太平洋中部ギルバート諸島におけるアメリカ軍最初の大規模な反攻が始まりました。リスカム・ベイの艦載機部隊は精力的に活動し、2,278回もの出撃を記録。敵飛行場への空爆などを通じて、上陸部隊への重要な支援を行いました。マキンは当初、一日での制圧が目標とされていましたが、第27師団は日本軍守備隊の掃討に手間取り、完全に占領できたのは11月23日になってからでした。この間、上陸部隊を支援するため、連合軍の海上部隊はマキン周辺海域に留まり続けざるを得ず、これが日本海軍潜水艦による攻撃を受けるリスクを高めることになります。
リスカム・ベイの悲劇は、マキン占領翌日の11月24日（日本時間では11月25日）の早朝に起こりました。ヘンリー・M・ムリニクス少将（本艦に将旗を掲げていた）率いる第52.3任務群は、リスカム・ベイを含む3隻の護衛空母と護衛駆逐艦部隊で編成され、戦艦ニューメキシコと共にマキン南西沖を航行していました。日本海軍の潜水艦「伊175」は、当初ハワイ方面で哨戒していましたが、米軍のマキン来襲を受けてギルバート諸島方面へ急行していたのです。11月23日にマキン沖に到着した伊175は、翌朝、米艦隊を発見します。午前5時5分、リスカム・ベイでは夜明けの発艦準備が進められていましたが、その時、戦艦ニューメキシコのレーダーが伊175とみられる目標を探知しました。レーダー波を探知した伊175は即座に潜航し、艦隊への接近を試みます。
午前5時10分、リスカム・ベイの偵察員が「魚雷接近！」を叫びました。伊175から発射された魚雷は、リスカム・ベイの機関室後部、船尾寄りの箇所に命中。この被雷により、搭載されていた航空機用爆弾庫が誘爆し、凄まじい大爆発が発生しました。爆発の瞬間を目撃した駆逐艦ホーエルの士官は「それはまるで船ではなく弾薬集積所のようだった…リスカム・ベイは爆発とともにオレンジ色の火の玉になった」と表現しています。爆発の衝撃でリスカム・ベイの後部は文字通り消滅し、破片は1300メートル離れたニューメキシコにまで降り注ぎました。伊175が発射した他の魚雷は、僚艦のコーラル・シーやコレヒドールに至近距離を通過していきました。
大爆発からわずか23分後の午前5時33分、船体前部だけを残したリスカム・ベイは右舷に傾き、そのまま海底へと沈没しました。この悲劇により、ムリニクス少将、ウィルトジー艦長、そして真珠湾攻撃の英雄ドリス・ミラー三等コックを含む53名の士官と591名の兵員、合計644名が犠牲となりました。総乗組員916名のうち、駆逐艦モリス、ヒューズ、ハルによって救助されたのは272名に過ぎませんでした。リスカム・ベイは、太平洋戦争でアメリカ海軍がその戦力を喪失した最初の護衛空母となりました。
リスカム・ベイを攻撃した伊175は、その後の米駆逐艦による爆雷攻撃で損傷を受けながらもこれを切り抜け、トラック泊地への帰還を果たしています。しかし、第六艦隊がギルバート諸島方面に投入した潜水艦9隻のうち、伊175を含む3隻だけが作戦海域から生還しました。また、日本軍はリスカム・ベイ救援中の米艦隊を発見し、ルオット島からの一式陸上攻撃機による夜間攻撃を企図しましたが、悪天候のため接敵できず、攻撃は実現しませんでした。
第5艦隊司令長官レイモンド・スプルーアンス中将は、リスカム・ベイの喪失について、陸軍によるマキン・タラワの占領が迅速に行われなかったため、艦隊が危険な海域に長く留まったことが原因の一つだと示唆しました。リスカム・ベイ単艦での戦死者数は、マキン島全体の米軍死傷者数を上回り、両者を合計すると日本軍マキン守備隊の総兵力を凌駕する数となりました。犠牲となったムリニクス少将の名は、後にタラワに完成した航空基地に冠され、その功績が称えられています。この戦闘の生存者の中には、後に著名な法学者となるロバート・キートンがいました。
リスカム・ベイが爆弾庫への被雷で呆気なく沈没した事実は、カサブランカ級護衛空母の脆弱性を露呈しました。これを受けて、爆弾庫周囲に燃料タンクを設置し、重油を満たすことでショックを吸収する防御対策が強化されました。しかし、アメリカ海軍は水中防御よりも航空作戦能力の維持を優先したため、イギリス海軍の護衛空母ほど徹底した対策には至りませんでした。
短い活動期間にもかかわらず、リスカム・ベイは第二次世界大戦における戦功により1個の従軍星章を受章しています。そして、本艦を葬った伊175は、翌1944年2月17日、タロア島北東沖で米駆逐艦ニコラスによって撃沈され、その生涯を終えました。
リスカム・ベイの建造は1942年12月9日、ワシントン州バンクーバーにあるカイザー造船所で始まりました。当初、本艦は「アミール (Ameer)」と命名され、イギリス海軍へ貸与される予定でしたが、建造途中でアメリカ海軍が取得することを決定しました。1943年4月19日にベン・モレル夫人の手で進水し、同年6月28日には「リスカム・ベイ」と正式に命名。そして7月15日に護衛空母を示す「CVE-56」の艦種記号が付与されました。最終的に、アーヴィング・ウィルトジー艦長の指揮のもと、1943年8月7日に就役を果たします。
就役後、リスカム・ベイは西海岸沿いで訓練活動を行い、実戦への準備を進めました。1943年10月21日、本艦はカリフォルニア州サンディエゴを出航し、一週間後にハワイの真珠湾に到着。追加の訓練と演習を終えると、最初の本格的な戦闘任務に就くことになります。これは、太平洋戦争中期における重要な転換点の一つであるギルバート・マーシャル諸島攻略戦（ガルヴァニック作戦）への参加でした。リスカム・ベイは第24空母部隊の一員として11月10日に真珠湾を出撃し、リッチモンド・K・ターナー少将指揮下の第52任務部隊に合流、ギルバート諸島方面へ向かいました。連合軍は特にマーシャル諸島に近いマキンに注目しており、真珠湾からの北方攻撃部隊と第27歩兵師団がマキン攻略を担当することになっていました。この作戦には、大型空母や軽空母を中核とする複数の機動部隊に加え、リスカム・ベイを含む8隻もの護衛空母が投入され、大規模な航空支援が計画されていました。
1943年11月20日、太平洋中部ギルバート諸島におけるアメリカ軍最初の大規模な反攻が始まりました。リスカム・ベイの艦載機部隊は精力的に活動し、2,278回もの出撃を記録。敵飛行場への空爆などを通じて、上陸部隊への重要な支援を行いました。マキンは当初、一日での制圧が目標とされていましたが、第27師団は日本軍守備隊の掃討に手間取り、完全に占領できたのは11月23日になってからでした。この間、上陸部隊を支援するため、連合軍の海上部隊はマキン周辺海域に留まり続けざるを得ず、これが日本海軍潜水艦による攻撃を受けるリスクを高めることになります。
リスカム・ベイの悲劇は、マキン占領翌日の11月24日（日本時間では11月25日）の早朝に起こりました。ヘンリー・M・ムリニクス少将（本艦に将旗を掲げていた）率いる第52.3任務群は、リスカム・ベイを含む3隻の護衛空母と護衛駆逐艦部隊で編成され、戦艦ニューメキシコと共にマキン南西沖を航行していました。日本海軍の潜水艦「伊175」は、当初ハワイ方面で哨戒していましたが、米軍のマキン来襲を受けてギルバート諸島方面へ急行していたのです。11月23日にマキン沖に到着した伊175は、翌朝、米艦隊を発見します。午前5時5分、リスカム・ベイでは夜明けの発艦準備が進められていましたが、その時、戦艦ニューメキシコのレーダーが伊175とみられる目標を探知しました。レーダー波を探知した伊175は即座に潜航し、艦隊への接近を試みます。
午前5時10分、リスカム・ベイの偵察員が「魚雷接近！」を叫びました。伊175から発射された魚雷は、リスカム・ベイの機関室後部、船尾寄りの箇所に命中。この被雷により、搭載されていた航空機用爆弾庫が誘爆し、凄まじい大爆発が発生しました。爆発の瞬間を目撃した駆逐艦ホーエルの士官は「それはまるで船ではなく弾薬集積所のようだった…リスカム・ベイは爆発とともにオレンジ色の火の玉になった」と表現しています。爆発の衝撃でリスカム・ベイの後部は文字通り消滅し、破片は1300メートル離れたニューメキシコにまで降り注ぎました。伊175が発射した他の魚雷は、僚艦のコーラル・シーやコレヒドールに至近距離を通過していきました。
大爆発からわずか23分後の午前5時33分、船体前部だけを残したリスカム・ベイは右舷に傾き、そのまま海底へと沈没しました。この悲劇により、ムリニクス少将、ウィルトジー艦長、そして真珠湾攻撃の英雄ドリス・ミラー三等コックを含む53名の士官と591名の兵員、合計644名が犠牲となりました。総乗組員916名のうち、駆逐艦モリス、ヒューズ、ハルによって救助されたのは272名に過ぎませんでした。リスカム・ベイは、太平洋戦争でアメリカ海軍がその戦力を喪失した最初の護衛空母となりました。
リスカム・ベイを攻撃した伊175は、その後の米駆逐艦による爆雷攻撃で損傷を受けながらもこれを切り抜け、トラック泊地への帰還を果たしています。しかし、第六艦隊がギルバート諸島方面に投入した潜水艦9隻のうち、伊175を含む3隻だけが作戦海域から生還しました。また、日本軍はリスカム・ベイ救援中の米艦隊を発見し、ルオット島からの一式陸上攻撃機による夜間攻撃を企図しましたが、悪天候のため接敵できず、攻撃は実現しませんでした。
第5艦隊司令長官レイモンド・スプルーアンス中将は、リスカム・ベイの喪失について、陸軍によるマキン・タラワの占領が迅速に行われなかったため、艦隊が危険な海域に長く留まったことが原因の一つだと示唆しました。リスカム・ベイ単艦での戦死者数は、マキン島全体の米軍死傷者数を上回り、両者を合計すると日本軍マキン守備隊の総兵力を凌駕する数となりました。犠牲となったムリニクス少将の名は、後にタラワに完成した航空基地に冠され、その功績が称えられています。この戦闘の生存者の中には、後に著名な法学者となるロバート・キートンがいました。
リスカム・ベイが爆弾庫への被雷で呆気なく沈没した事実は、カサブランカ級護衛空母の脆弱性を露呈しました。これを受けて、爆弾庫周囲に燃料タンクを設置し、重油を満たすことでショックを吸収する防御対策が強化されました。しかし、アメリカ海軍は水中防御よりも航空作戦能力の維持を優先したため、イギリス海軍の護衛空母ほど徹底した対策には至りませんでした。
短い活動期間にもかかわらず、リスカム・ベイは第二次世界大戦における戦功により1個の従軍星章を受章しています。そして、本艦を葬った伊175は、翌1944年2月17日、タロア島北東沖で米駆逐艦ニコラスによって撃沈され、その生涯を終えました。
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