リチャード・タラスキン
リチャード・タラスキン（Richard Taruskin）は、20世紀後半から21世紀初頭にかけて、アメリカ音楽学界において極めて重要な役割を果たした人物です。1945年4月2日にニューヨークで生まれ、2022年7月1日にカリフォルニア州オークランドでその生涯を閉じました。彼は単なる研究者にとどまらず、音楽評論家、古楽演奏家、指揮者としても多岐にわたる活動を展開しました。
タラスキンはニューヨークで育ち、コロンビア大学で音楽学を学びました。1971年から1972年にかけてはモスクワに滞在し、ロシア音楽への造詣を深めます。1975年には、後の代表的な著作の一つとなる『1860年代のロシア・オペラ』（Opera and Drama in Russia: as Preached and Practiced in the 1860s）に関する論文でコロンビア大学から博士号を取得しました。その後、同大学で教鞭をとり、助教、准教授を歴任。1989年からはカリフォルニア大学バークレー校の教授として、後進の指導にあたるとともに、精力的な研究・執筆活動を続けました。
タラスキンの研究の中心はロシア音楽でした。彼は、それまで支配的であったロシア音楽史の捉え方、特に国民楽派中心の歴史観に対して、多くの疑問を投げかけ、新たな視点を提供しました。彼の研究は、特定の作曲家や作品の解釈に大きな変革をもたらしました。
これらの研究成果は、『ムソルグスキー』（Musorgsky, 1992年）、『ストラヴィンスキーとロシア的伝統』（Stravinsky and the Russian traditions, 1996年）、『ロシアを音楽的に定義する』（Defining Russia Musically, 1997年）といった著作にまとめられ、国際的に高く評価されています。
タラスキンは研究活動に加え、ニューヨーク・タイムズ紙などへの寄稿を通じて音楽評論家としても活躍しました。また、研究対象はロシア音楽に留まらず、15世紀のシャンソン研究など中世音楽にも精通し、自身も演奏活動を行いました。コロンビア大学のコレギウム・ムジクムでは合唱指揮者を務め、1970年代後半から1980年代後半にかけてはアウロス合奏団でヴィオラ・ダ・ガンバ奏者として活動しました。
その広範で深い業績は多くの賞によって称えられました。アメリカ音楽学会からは、ノア・グリーンバーグ賞（1978年）、アルフレッド・アインシュタイン賞（1980年）、デント賞（1987年）、オットー・キンケルディ賞（1997年、 2006年）を受賞。また、米国作曲家作詞家出版者協会（ASCAP）からディームズ・テイラー賞（1988年）を、そして2017年には京都賞思想・芸術部門を受賞しています。
2022年7月1日、食道癌のため、カリフォルニア州オークランドの病院で亡くなりました。彼の死去は音楽学界に大きな喪失をもたらしましたが、その革新的な研究と多大な影響は、今後も長く語り継がれるでしょう。
タラスキンの主要な著作としては、前述のものの他、『The Oxford History of Western Music』（全6巻、後に全5巻改訂版）、『Text and Act』、『The Danger of Music and Other Anti-Utopian Essays』などがあります。
生涯と学歴
タラスキンはニューヨークで育ち、コロンビア大学で音楽学を学びました。1971年から1972年にかけてはモスクワに滞在し、ロシア音楽への造詣を深めます。1975年には、後の代表的な著作の一つとなる『1860年代のロシア・オペラ』（Opera and Drama in Russia: as Preached and Practiced in the 1860s）に関する論文でコロンビア大学から博士号を取得しました。その後、同大学で教鞭をとり、助教、准教授を歴任。1989年からはカリフォルニア大学バークレー校の教授として、後進の指導にあたるとともに、精力的な研究・執筆活動を続けました。
研究業績：ロシア音楽史への貢献
タラスキンの研究の中心はロシア音楽でした。彼は、それまで支配的であったロシア音楽史の捉え方、特に国民楽派中心の歴史観に対して、多くの疑問を投げかけ、新たな視点を提供しました。彼の研究は、特定の作曲家や作品の解釈に大きな変革をもたらしました。
- - アレクサンドル・セローフ: 博士論文である『1860年代のロシア・オペラ』は、長らく正当な評価を受けてこなかった作曲家アレクサンドル・セローフへの再評価のきっかけとなりました。
- - モデスト・ムソルグスキー: ムソルグスキーについては、伝記作者ウラディーミル・スターソフによって形成されたナロードニキ的、あるいは民主的な音楽家というイメージ、いわゆる「スターソフ神話」を批判的に検討し、より事実に即した作曲家および作品像の必要性を訴えました。
- - ピョートル・チャイコフスキー: 従来イギリスの研究者を中心に確立されていた「告白する音楽家」といったロマンティックなイメージに対し、チャイコフスキーの音楽構造を深く分析することで、そのイメージを覆す解釈を提示しました。また、バレエ振付家のジョージ・バランシンが提唱した概念を引用・支持し、チャイコフスキーの音楽様式を「帝政様式」と位置づけました。
- - イーゴリ・ストラヴィンスキー: バレエ音楽『春の祭典』の創作過程を徹底的に分析し、この作品における民俗音楽の要素がこれまで考えられていた以上に重要であり、ロシア民謡が作曲の過程で複雑に変形されていることを明らかにしました。さらに、バレエ『狐』や『結婚』に関連するロシア民話詩に基づく歌曲集を詳細に研究し、その民族誌的な背景を解明しました。
- - ドミートリイ・ショスタコーヴィチ: ソロモン・ヴォルコフ編の『ショスタコーヴィチの証言』を巡る論争において、タラスキンはその記述に沿った作品の標題音楽的な分析や、音楽を別の言葉で「言い換え」る解釈手法に反対しました。彼は『証言』に作曲家の真意が体現されているという立場を擁護し、『証言』に肯定的な立場から書かれたイアン・マクドナルドの著書を厳しく批判しました。タラスキンは、音楽の解釈は作曲家が作品に込めた意図だけでなく、聴衆が作品から引き出すものにも帰されるべきだと主張し、ローレル・フェイらと共にこの論争に事実上の終止符を打つ上で重要な役割を果たしました。
これらの研究成果は、『ムソルグスキー』（Musorgsky, 1992年）、『ストラヴィンスキーとロシア的伝統』（Stravinsky and the Russian traditions, 1996年）、『ロシアを音楽的に定義する』（Defining Russia Musically, 1997年）といった著作にまとめられ、国際的に高く評価されています。
その他の活動
タラスキンは研究活動に加え、ニューヨーク・タイムズ紙などへの寄稿を通じて音楽評論家としても活躍しました。また、研究対象はロシア音楽に留まらず、15世紀のシャンソン研究など中世音楽にも精通し、自身も演奏活動を行いました。コロンビア大学のコレギウム・ムジクムでは合唱指揮者を務め、1970年代後半から1980年代後半にかけてはアウロス合奏団でヴィオラ・ダ・ガンバ奏者として活動しました。
受賞
その広範で深い業績は多くの賞によって称えられました。アメリカ音楽学会からは、ノア・グリーンバーグ賞（1978年）、アルフレッド・アインシュタイン賞（1980年）、デント賞（1987年）、オットー・キンケルディ賞（1997年、 2006年）を受賞。また、米国作曲家作詞家出版者協会（ASCAP）からディームズ・テイラー賞（1988年）を、そして2017年には京都賞思想・芸術部門を受賞しています。
死去
2022年7月1日、食道癌のため、カリフォルニア州オークランドの病院で亡くなりました。彼の死去は音楽学界に大きな喪失をもたらしましたが、その革新的な研究と多大な影響は、今後も長く語り継がれるでしょう。
タラスキンの主要な著作としては、前述のものの他、『The Oxford History of Western Music』（全6巻、後に全5巻改訂版）、『Text and Act』、『The Danger of Music and Other Anti-Utopian Essays』などがあります。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。