リチャード・バーベッジ

リチャード・バーベッジ：シェイクスピアを支えた名優の生涯

リチャード・バーベッジ (1568年7月7日 - 1619年3月13日) は、エリザベス朝時代のイギリスを代表する俳優であり、劇場経営者でした。ウィリアム・シェイクスピアが所属した名門劇団「国王一座」の看板俳優として活躍し、シェイクスピア作品の数々の初演で主役を演じたことで知られています。

華麗なる舞台人生：シェイクスピア劇のみならず

バーベッジの生い立ちや初期の俳優活動については不明な点が多いものの、20代前半にはすでに名声を博していたと推測されています。レスター伯一座などの劇団に所属していた可能性も指摘されていますが、確実な証拠はありません。1590年代には複数の劇団を渡り歩いた後、シェイクスピアと同じ「宮内大臣一座」(後に「国王一座」と改称) に所属し、不動の地位を築きました。

バーベッジはシェイクスピア作品の数多くの主役を演じ、その代表作として『ハムレット』、『オセロー』、『リア王』、『リチャード三世』などが挙げられます。しかし、彼の演技力はシェイクスピア作品に限定されませんでした。ベン・ジョンソンの『ヴォルポーネ』や『錬金術師』、ジョン・マーストンの『不満家』、ジョン・ウェブスターの『マルフィ公爵夫人』、ボーモント＆フレッチャーの『乙女の悲劇』など、同時代の著名な劇作家による作品にも数多く出演し、主演を務めています。

バーベッジの卓越した演技力は、彼が演じた役の量と質から明らかです。当時の膨大な演劇作品群の中で、登場人物のセリフが800行を超える大作は約20本ほどしかありませんでしたが、そのうち実に13本の主役をバーベッジが演じていたのです。これは、エドワード・アレンといった当時の名優をも凌駕する記録であり、彼の圧倒的な演技力と人気を示しています。

劇場経営と晩年：グローブ座の建設に貢献

バーベッジは俳優としてだけでなく、劇場経営者としても成功を収めました。1597年に父親が亡くなると、兄のカスバートと共に、家族が所有していた2つの劇場、ブラックフライヤーズ座とシアター座の経営を引き継ぎます。シアター座は土地所有者とのトラブルにより解体せざるを得なくなりましたが、その資材を利用して新たな劇場、グローブ座が建設されました。バーベッジ兄弟はグローブ座の建設に重要な役割を果たし、演劇界に多大な貢献をしました。

バーベッジは、妻ウィニフレッドとの間に少なくとも8人の子供をもうけました。しかし、ビジネスの才覚においては、同時代のエドワード・アレンやシェイクスピアには及ばず、莫大な富を築くことはありませんでした。1619年に亡くなった彼は、「300ポンド以上」の不動産を残したと伝えられていますが、これは当時の富豪と比較すると少ない額でした。

バーベッジの死後、彼の功績を称える多くの碑文が刻まれました。中でも「バーベッジ退場」という言葉は、彼の死を簡潔に、そして最も印象的に表していると言えるでしょう。彼の墓はグローブ座近くのセント・レナード教会にありましたが、現在は墓石は失われています。しかし、後世になってバーベッジ兄弟の記念碑が建立され、今もなお、彼の偉業が偲ばれています。

謎めいた肖像画とその後：シェイクスピア像との関連性？

有名な「チャンドス・ポートレイト」と呼ばれるシェイクスピアの肖像画は、実際にはバーベッジを描いたものだと主張する者もいます。また、バーベッジ自身は絵画に造詣が深く、この肖像画の作者であった可能性も指摘されています。ダリッジ・カレッジにある女性の頭像も、かつてはバーベッジの作品だと考えられていましたが、その後、北部イタリアの画家の作品であることが判明しました。

バーベッジは生涯現役を貫き、1619年まで舞台に立ち続けました。彼の死は、演劇界に大きな損失をもたらし、多くの弔いの言葉が捧げられました。彼の功績は、シェイクスピア劇のみならず、エリザベス朝演劇史全体において重要な位置を占めています。

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