リメ運動

リメ運動：チベット仏教のルネサンス

19世紀の東チベット、カム地方で興ったリメ運動は、チベット仏教のあり方に新たな風を吹き込みました。リメ（Rimé）とはチベット語で「偏り無し」を意味し、その名の通り、宗派間の偏見を排し、多様な仏教の伝統を尊重する思想を基盤としています。

運動の概略

リメ運動は、既存の宗派の枠組みにとらわれず、各宗派の教えや実践を平等に尊重し、学び合うことを目指しました。これは単なる折衷主義ではなく、それぞれの伝統の独自性を尊重しながら、全体として仏教の理解を深めようとする、包括的かつ統合的なアプローチでした。リメ運動は、チベット仏教のルネサンスとも呼ばれ、停滞していたチベット仏教界に新たな活力を与えました。

主導者たち

リメ運動は、以下の3人の傑出した人物によって主導されました。

ジャムヤン・キェンツェ・ワンポ (1820-1892): サキャ派のトゥルク（化身）であり、テルトン（埋蔵経典の発見者）でもありました。リメ運動の発起人として、その思想的基盤を築きました。
ジャムグン・コントゥル・ロドゥ・タイェ (1813-1901): カギュ派のトゥルクであり、博識で知られました。リメ運動の実質的な指導者として、その組織化と普及に尽力しました。
チョーギュル・デチェン・リンパ (1829-1871): ニンマ派のテルトンであり、多くの重要な経典を発見しました。リメ運動の思想的深化に貢献しました。

これらの指導者たちは、デルゲ王国の宮廷や、カム地方に存在したサキャ派、カギュ派、ニンマ派、ボン教などの寺院ネットワークの支援を受けながら、リメ運動を推進しました。

現代への影響

リメ運動は、現代のチベット仏教にも大きな影響を与え続けています。ディンゴ・キェンツェ・リンポチェ、第16世カルマパ・ランジュン・リクペー・ドルジェ、チョギャム・トゥルンパ・リンポチェ、そしてダライ・ラマ14世など、多くの著名なラマたちがリメの理念を受け継ぎ、その精神を実践しています。彼らは、宗派間の対立を避け、相互理解と協調を促進することで、チベット仏教の発展に貢献しています。

リメ運動は、チベット仏教の多様性を尊重し、その豊かな伝統を未来へと繋ぐための重要な運動であったと言えるでしょう。

参考文献

ロラン・デエ『チベット史』今枝由郎訳、春秋社、2005年。ISBN 4-393-11803-0
マルク＝ヘンリ・デロッシュ（和訳：安田章紀）「チベット仏教におけるリメ（無偏）のアプローチ: 歴史、哲学、文化保存」『サンガジャパン Vol.24 特集「チベット仏教」』永沢哲監修、サンガ、2016年。ISBN 978-4-86564-062-5
Van Schaik, Sam (2011). Tibet: A History. Yale University Press. ISBN 978-0-300-15404-7

関連項目

チベット仏教

外部リンク

仏教から見たケサル（リメ運動）

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