リリコン

リリコン (Lyricon): 伝説の管楽器型シンセサイザー

リリコンは、1970年代にアメリカで開発された、管楽器の操作感を持つユニークな電子楽器です。コンピュトーン社によって開発され、その名前は「Lyrical（叙情的）」と「Control（制御）」を組み合わせた造語に由来します。管楽器奏者にとって、リリコンはシンセサイザーの音色を息遣いや指使いで表現できる、革新的なツールでした。

開発と特徴

1970年、ビル・バーナーディとロジャー・ノーブルによってコンピュトーン社が設立。1973年にはリリコンの特許を取得し、翌年から製品販売を開始しました。しかし、その高額さ（初期モデルは180万円、後に90万円に値下げ）と複雑なセッティングがネックとなり、普及は進みませんでした。一時、大手楽器メーカーのセルマー社と提携しましたが、1981年にコンピュトーン社は倒産し、リリコンの製造は中止されました。

リリコンは、クラリネットやサックスのような形状をしていますが、その内部構造は大きく異なります。マウスピースに取り付けられたリードは、音を出すためのものではなく、唇の圧力を感知するリップセンサーに情報を伝えます。また、キーは電気スイッチとして機能し、息の圧力はブレスセンサーによって検知されます。これらの情報はケーブルを通じてシンセサイザーに送られ、発振音の加工に使用されます。リップセンサーはVCO（電圧制御発振器）、ブレスセンサーはVCF（電圧制御フィルター）とVCA（電圧制御増幅器）、キーの状態はVCOに接続されるのが一般的なセッティングです。

製品の種類

セルマー社との提携後、コンピュトーン社からは以下の3種類の製品が発売されました。

リリコンI (1974年): 初期のモデルで、日本での販売価格は180万円（後に90万円に値下げ）。リリコンIIと区別するため、リリコンIとも呼ばれます。加算合成方式を採用した専用シンセサイザーが付属していました。
リリコンII (1976年): 日本での販売価格は75万円。減算合成方式を採用した専用シンセサイザーが付属していました。
ウインド・シンセサイザー・ドライバー (1976年): 日本での販売価格は50万円。シンセサイザー音源は付属せず、外部シンセサイザーとの接続を前提としたコントローラーです。管体はリリコンIIと同じものが使用されました。

著名な演奏者

リリコンは、その独特な表現力から、一部のミュージシャンに熱狂的に支持されました。代表的な演奏者としては、ジャズ・フュージョン界のサックス奏者、トム・スコットや、ウィンダム・ヒル・レコードのチャック・グリーンバーグが挙げられます。トム・スコットは、スティーリー・ダンの名曲「麗しのペグ」でリリコンを演奏しています。

日本においては、THE SQUARE（現T-SQUARE）のサックス奏者、伊東たけしがリリコンを使用したことで広く知られるようになりました。伊東たけしは、リリコンの他に、ウインド・シンセサイザー・ドライバーや、永塚策英氏が製作したTAKECON-1という独自のシステムも導入していました。THE SQUAREの楽曲では、以下の曲でリリコンが使用されています。

LITTLE MERMAID: リリコンIを使用 (アルバム『MAGIC』収録)
ALL ABOUT YOU & TRAVELERS: ウインド・シンセサイザー・ドライバー+Oberheim Two Voiceを使用 (アルバム『ADVENTURES』収録)。サントリーホワイトのCM曲として使用されました。
OMENS OF LOVE: TAKECON-1+TAKECON-1音源を使用 (アルバム『R・E・S・O・R・T』収録)。ライブではウインド・シンセサイザー・ドライバー+Oberheim Two Voiceが使用されることもありました。
TRUTH: ウインド・シンセサイザー・ドライバー+Minimoogを使用 (アルバム『TRUTH』収録)。F1グランプリのテーマ曲として有名です。

伊東たけしの後任であるT-SQUARE3代目フロントマンの宮崎隆睦も2022年頃に入手しライブによってAKAI EWIやNuRADなどと一緒に使い分けるようになりました

現在のリリコン

コンピュトーン社の倒産後、リリコンは製造中止となりましたが、現在でも中古市場で取引されています。ヤマハがコンピュトーン社の特許を買い取り、MIDI規格に対応したWX7を開発したほか、AKAI professionalなどがニール・スタイナーのEVI、EWIのライセンス製造を行いました。これらの楽器は、総称してウインド[[シンセサイザー]]と呼ばれています。

リリコンは、その斬新なコンセプトと独特のサウンドで、電子楽器の歴史に名を刻みました。現在では入手困難な楽器ですが、その革新性は、現代のウインド[[シンセサイザー]]にも受け継がれています。

関連項目:

ウインド[[シンセサイザー]]
ヤマハ・WXシリーズ
AKAI EWIシリーズ

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