リンク 11

リンク 11

リンク 11は、北大西洋条約機構（NATO）加盟国間で標準として採用された戦術データ・リンクの規格です。初期にはA-LinkやTADIL-Aとも呼ばれ、アメリカの軍事規格MIL-STD-188-203-1A、およびNATO標準化協定（STANAG）STANAG 5511として規定されています。

開発経緯

リンク 11の開発は、アメリカ海軍が構築した海軍戦術情報システム（NTDS）のために始まりました。NTDSは、艦艇や航空機などが戦場の情報を共有し、効果的な指揮統制を行うためのシステムであり、その中核技術としてリアルタイムでのデータ交換を可能にするデータ・リンクが求められました。

1956年、海軍艦船局はNTDS用デジタル・データ通信端末の開発を通信機器メーカーに提案し、HF通信回線でのデジタルデータ伝送技術が開発されました。試作機器の洋上試験を経て改良が進み、1963年3月、アメリカ海軍はリンク 11を含むNTDSの配備を正式に承認し、運用が開始されました。

システム構成と通信方式

ネットワーク特性

リンク 11は、通信媒体として短波（HF: 2～30 MHz）または超短波（UHF: 225～400 MHz）を使用します。変調方式はHF帯でAM、UHF帯でFMです。通信距離はHF帯で約300海里、UHF帯で約25海里が目安となります。データ転送速度には高速モード（2,250 bps）と低速モード（1,364 bps）があります。

ネットワークには最大62ユニットが参加可能で、主要な運用モードは「ロール・コール（Roll Call）」です。これは、ネットワーク内の通信ネット管制ステーション（NCS）が他の参加ユニット（NPS）を順番に呼び出し、呼び出されたNPSが自身の戦術データを送信するポーリング方式です。送信されるメッセージは、48ビットのフォーマットに従います。電波管制状況下などでは、特定のユニットから他全てへの一方的な送信を行う「ブロードキャスト・モード」も使用されます。

搭載ハードウェア

リンク 11を運用する機器は、開発当初から順次改良されました。最初期はAN/SRC-16やAN/SSQ-29が使用され、その後AN/SRC-23やAN/USQ-36といった新型機が登場しました。1970年代以降も改良が進み、1990年代にはオープンアーキテクチャ化されたMX-512Pを中核とするシステム（AN/USQ-125など）が運用されました。

メッセージフォーマット（Mシリーズ）

リンク 11で交換される戦術データは、「Mシリーズ」と呼ばれる標準メッセージフォーマットに従います。このフォーマットはSTANAG 5511（MIL-STD 6011）で規定されており、以下のように様々な種類の情報に対応しています。

M.1: 参照点の座標
M.2: 空中目標の座標
M.3: 水上目標の座標
M.4: 対潜水艦戦（ASW）目標の座標
M.5: 電子支援措置（ESM）探知の座標
M.6: 電子妨害（ECM）目標の座標
M.7: 戦域ミサイル防衛関連情報
M.9: 情報源・状況伝達
M.10: 航空管制情報
M.11B: 航空機の状況
M.11C: 対潜哨戒機の状況
M.11D: 敵味方識別情報
M.11M: 諜報状況
M.13: 国籍情報
M.14: 武器・交戦状況
M.15: 指揮統制情報

これらのMシリーズフォーマットは、リンク 1（TADIL-B）でも使用されました。

運用の広がりと後継規格

リンク 11はNTDSや航空戦術情報システム（ATDS）などで広く採用され、NATO加盟国を中心に運用されました。後継のリンク 16が登場した後も、多くの既存システムがリンク 11に対応していたため運用が継続されました。1990年代末には、性能向上のための先進戦術データ・リンク（ATDL）計画が進められています。リンク 11の直接的な後継としては、NILEとして開発が進められ、後にリンク 22と改称された規格があります。

日本でも、海上自衛隊のTDPS搭載護衛艦（しらね型以降のDD、たちかぜ型以降のDDG）、はやぶさ型ミサイル艇、P-3C哨戒機などに広く搭載されました。航空自衛隊でもE-2C早期警戒機が装備していました。

フランスは独自のシステム向けに、リンク 11を参考にしたリンク Wを開発した例があります。

関連規格として、リンク 11非対応艦船向けにテレタイプで情報を送信するリンク 14があります。

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