リンネソウ

リンネソウ（Linnaea borealis）

リンネソウは、スイカズラ科リンネソウ属に分類される、常緑性の小低木です。この植物は、分類学の父とも呼ばれるカール・フォン・リンネによって愛され、彼の名前が属名に採用されたことで知られています。日本では、茎が二股に分かれて花を咲かせる様子から「メオトバナ（夫婦花）」という別名も持っています。また、エゾアリドオシという別名も存在します。

分布

リンネソウは、北半球の亜寒帯に広く分布しており、北アメリカ、南ヨーロッパ、東アジアなどで見られます。基準標本はラップランドで採取されたものです。日本では、北海道から本州中部地方以北にかけて分布し、高山帯から亜高山帯の針葉樹林下やハイマツ林の林床に生育しています。特に、御嶽山や白馬岳を代表する花として知られています。

形態

リンネソウは、地面を這うように成長する匍匐性の亜低木です。茎は通常5～7cmですが、最大で20～40cmに達することがあります。葉は丸い単葉で、大きさは3～10mm程度で、茎に対生します。花茎は斜め上に伸び、長さは4～8cmになります。花期は7～8月で、花茎の先に2つの筒状または鐘状の花を下向きに咲かせます。花の色は薄い桃色で、大きさは7～9mm程度です。染色体数は2n=32（2倍体）です。

生態

リンネソウは自家不和合性を示し、花粉の散布能力が低いため、種子の結実率が低いという特徴があります。そのため、地下茎による無性生殖によって個体群を維持することが多く、遺伝的多様性が低い集団が形成されやすい傾向があります。スコットランドの研究では、37%のリンネソウのパッチが単一の遺伝子型で構成されているという結果が出ています。このような性質から、種子による新たな個体群の再生は難しく、気候変動などの環境変化への適応が懸念されています。特に、日本を含む東アジアでは結実しにくいとされています。

亜種

リンネソウは1属1種とされていますが、以下の亜種や変種が記録されています。

Linnaea borealis subsp. borealis：ヨーロッパに分布する基亜種。
Linnaea borealis subsp. americana：北アメリカに分布。
Linnaea borealis subsp. longiflora：アジアに分布。

エピソード

リンネソウは、カール・フォン・リンネが「私の花」と呼んで愛した植物です。彼は著書『ラップランド植物誌』にこの植物の図説を掲載し、その図案をあしらったコーヒーカップを中国に注文しました。このコーヒーカップは、スウェーデンのウプサラにあるリンネ博物館に保存されています。また、フィンランドの作曲家ジャン・シベリウスは、ピアノ曲「13の小品」作品76の第11曲に『リンネソウ』と名付けています。

脚注

注釈

出典

参考文献

清水建美、門田裕一、木原浩『高山に咲く花』（増補改訂新版）山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑8〉、2014年3月22日。ISBN 978-4635070300。
田中澄江『新・花の百名山』文藝春秋、1995年6月。ISBN 4-16-731304-9。
田中澄江『花の百名山』文春文庫、1997年6月。ISBN 4-16-352790-7。
豊国秀夫『日本の高山植物』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、1988年9月。ISBN 4-635-09019-1。
佐竹義輔、大井次三郎、北村四郎、亘理俊次、冨成忠夫 編『日本の野生植物 草本Ⅲ合弁花類』平凡社、1981年10月。ISBN 4582535038。
林弥栄『日本の野草』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2009年10月。ISBN 9784635090421。
牧野富太郎、本田正次『原色牧野植物大図鑑』北隆館、1982年7月。ASIN B000J6X3ZE。 NCID BN00811290。全国書誌番号:85032603。https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001728467-00。

外部リンク

リンネソウの標本（北海道大雪山で1959年8月4日に採集）（千葉大学附属図書館）
日本のレッドデータ検索システム「リンネソウ」（エンビジョン環境保全事務局）
* Linnaea borealis L.（The Plant List）（英語）

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