リンパ球減少症

リンパ球減少症とは

リンパ球減少症（Lymphocytopenia、Lymphopenia）は、血液検査においてリンパ球の数が基準値よりも明らかに少ない状態を指します。リンパ球は、体内に侵入した病原体を認識し排除するなど、免疫システムにおいて極めて重要な役割を担う白血球の一種です。これとは対照的に、リンパ球が増加する状態はリンパ球増多症と呼ばれます。

リンパ球減少症は、貧血や血小板減少など、すべての種類の血液細胞が減少する汎血球減少症の一部として認められる場合もあります。

分類

リンパ球減少症は、主にどの種類のリンパ球が減少しているかによってさらに細かく分類されることがあります。T細胞、B細胞、ナチュラルキラー（NK）細胞の3種類のリンパ球すべてが減少している場合は、単にリンパ球減少症と呼ばれることが多いです。

T細胞減少症

T細胞の数が著しく少ない状態ですが、他のリンパ球の数は通常通りです。T細胞は細胞性免疫の中心を担っているため、その不足は細胞性免疫不全の症状として現れます。特発性CD4陽性Tリンパ球減少症（ICL）は、ヒト免疫不全ウイルス（HIV）感染や化学療法などの既知の免疫抑制要因がないにもかかわらず、CD4+T細胞数が持続的に低値（300/μL以下）を示す非常に稀な疾患群です。

B細胞減少症

B細胞の数が少なく、他のリンパ球数は正常な状態です。B細胞は抗体産生に関わる体液性免疫を担うため、B細胞の減少は体液性免疫不全の原因となり、関連症状を引き起こします。この状態は、免疫機能を抑制する特定の薬剤の使用によって引き起こされることが比較的多いです。

NK細胞減少症

ナチュラルキラー細胞（NK細胞）の数が少ない状態ですが、他のリンパ球数は正常です。NK細胞はウイルス感染細胞や腫瘍細胞の排除に関わります。このタイプのリンパ球減少症は非常に珍しいケースです。

成因

リンパ球減少症の原因は多岐にわたります。大きく分けて、遺伝的な要因による「原発性」と、他の病気や状態によって生じる「続発性」があります。

原発性（遺伝性）

先天的な免疫系の異常や遺伝的疾患が原因となる場合です。以下のような疾患が含まれます。

リンパ球のもととなる幹細胞がうまく作られない状態
毛細血管拡張性運動失調症
軟骨毛髪低形成症
特発性CD4陽性Tリンパ球減少症（ICL）
胸腺腫に関連する免疫不全症
重症複合免疫不全症（SCID）：IL-2受容体γ鎖、ADA、PNPなどの遺伝子欠損に起因するものを含む
ウィスコット・アルドリッチ症候群

続発性（後天性）

病気や薬剤、環境要因などによって後天的に生じるもので、これが最も一般的な原因です。

感染症: 風邪のような比較的軽い感染症から、HIV、インフルエンザウイルス（H1N1など）、SARSコロナウイルス、そしてCOVID-19といったウイルス感染症まで、様々な感染症が一時的なリンパ球減少を引き起こすことがあります。細菌感染症や真菌感染症でも生じ得ます。
薬剤: コルチコステロイドや、がん治療に用いられる細胞障害性抗がん剤、臓器移植などで使用される免疫抑制剤は、頻繁にリンパ球減少を招きます。
自己免疫疾患: 全身性エリテマトーデスや関節リウマチ、サルコイドーシス、多発性硬化症などが関連することがあります。
悪性腫瘍: 白血病や、骨髄に転移したホジキンリンパ腫などの進行したがんでもリンパ球減少が見られます。
栄養失調: 重度の栄養不足もリンパ球の産生に影響を与える可能性があります。
ストレス: 強い精神的ストレスや、激しい・長時間の運動によって放出されるホルモン（コルチゾールなど）も一時的なリンパ球減少に関与することがあります。
放射線: 原発事故による被曝や、医療目的の全身放射線照射など、大量の放射線を浴びることでリンパ球が破壊され、リンパ球減少を引き起こすことがあります。

診断

リンパ球減少症は、一般的な血液検査である全血球算定（CBC）によって診断されます。具体的には、血液中のリンパ球数が年齢に応じた正常範囲の下限値を下回っている場合に診断が確定されます。例えば、成人ではリンパ球数が1.0×10⁹/L未満が目安となります。

治療

治療は、リンパ球減少症を引き起こしている根本的な原因を取り除くことが基本となります。

原発性リンパ球減少症: 重症の場合、造血幹細胞移植が有効な治療選択肢となります。
続発性リンパ球減少症: 原因となっている基礎疾患（感染症、自己免疫疾患など）に対する治療を行います。合併している感染症があれば、その治療も同時に行われます。免疫機能の著しい低下が見られる場合や、特定の原因による場合は、免疫グロブリン製剤の投与が行われることもあります。

予後

予後はリンパ球減少の原因によって大きく異なります。感染症に起因する一時的なリンパ球減少症は、通常、感染症が治癒するにつれてリンパ球数も回復する傾向があります。一方、特発性CD4陽性Tリンパ球減少症（ICL）の場合、CD4+T細胞数が異常に低いままでも安定しているケースと、徐々に減少し進行していくケースがあり、後者は予後が厳しい状態となり得ます。

他の動物における例

猫において、猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルスといったレトロウイルス感染症によってリンパ球減少症が見られることがあります。これらのケースでは、T細胞の免疫機能を調整する薬剤などが治療に用いられることがあります。

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