ルイ・アンドリーセン

アムステルダムを活動拠点としたオランダの作曲家、ピアニスト、ルイ・アンドリーセン（Louis Andriessen, 1939年 6月6日 - 2021年7月1日）は、20世紀後半から21世紀初頭にかけての現代音楽界において、最も革新的で影響力のある人物の一人として知られています。

生い立ちと音楽の道

アンドリーセンは1939年、ユトレヒトの音楽家一家に誕生しました。父ヘンドリク、兄ユリアーン、姉セシリア、叔父ウィレムも高名な音楽家という環境で育ち、後にギタリストとなるジャネット・ヤニキアンと結婚しました。彼はまず父ヘンドリクとハーグ王立音楽院のケース・ファン・バーレンに音楽を学び、その後、イタリアの著名な作曲家ルチアーノ・ベリオにミラノとベルリンで2年間師事しました。若い頃から才能を示し、1959年にはガウデアムス国際作曲家賞を受賞しています。教育活動にも熱心で、後に母校であるハーグ王立音楽院で作曲を教え、多くの後進を育てました。

作風の展開と革新

アンドリーセンの初期作品は、戦後セリエリズムの『Series』（1958年）、パスティーシュを用いた『Anachronie』（1966年 - 1967年）、テープ音楽の『Il Duce』（1973年）など、当時の多様な現代音楽の潮流を実験するものでした。しかし、彼はオランダの現代音楽シーンに見られる保守的な傾向に批判的であり、それへの反動として、次第に独自の急進的かつオルタナティブな音楽的美学を確立していきました。

1970年代に入ると、アンドリーセンは伝統的なオーケストラ編成での作曲から距離を置き始めます。代わりに、一部に伝統楽器を残しつつも、エレクトリックギター、エレクトリックベース、コンガなどを加えた独自の楽器編成のための作品を生み出すことを選びました。これは、彼の音楽が持つ力強く、リズムを重視したスタイルと深く結びついています。

彼の円熟期の音楽には、イーゴリ・ストラヴィンスキー、アメリカンミニマリズム、ジャズといった多様な影響が見られます。しかし、多くのミニマリズム音楽が協和的な和声を志向するのに対し、アンドリーセンは戦後ヨーロッパ音楽の流れを汲む不協和音を好み、しばしば巨大な音塊として響かせました。大規模作品である『De Staat』などでは、カウント・ベイシーやスタン・ケントンのビッグバンド音楽が持つエネルギーや、スティーヴ・ライヒの反復技法の影響を取り入れつつ、これらを鮮烈で衝突するような不協和音と組み合わせることで、彼ならではのサウンドを創造しました。彼の音楽はしばしば反＝ゲルマン的、反＝ロマン主義的と評され、戦後ヨーロッパのセリエリズムとその分派からの明確な離脱を示しています。また、彼は伝統的な演奏技法に代わる新たなアプローチを求め、力強くリズミカルなアーティキュレーションや、アンプを使用したノンビブラートの歌唱などを指定しました。

主要作品と共同作業

アンドリーセンの代表作としては、以下のものが挙げられます。

『Workers Union』（1975年）: 大音量の楽器群のための旋律的に不確定な小品。
『Mausoleum』（1979年）: 2人のバリトンと大アンサンブルのための作品。
『De Tijd』（1979年 - 1981年）: 女声とアンサンブルのための作品。
『De Snelheid』（1982年 - 1983年）: 3つの電気増幅されたアンサンブルのための作品。
『De Materie』（1984年 - 1988年）: 声とアンサンブルのための大規模な4部構成作品。オランダ史、神秘主義、芸術運動「デ・ステイル」、科学など、多様なテーマとテキストに基づいています。
第1部: 1581年の離脱宣言、造船に関するテキスト、物理学者の思想など。
第2部: 神秘主義者ハデウィッチの「第7のヴィジョン」。
第3部: 画家ピエト・モンドリアンに関連するテキスト。
* 第4部: 詩人ウィレム・クロースのソネット、マリ・キュリーの日記とノーベル賞スピーチからの抜粋。

アンドリーセンはまた、映画監督でありオペラ台本作家でもあるピーター・グリーナウェイとの実りあるコラボレーションでも知られています。映画『M is for Man, Music, Mozart』や、オペラ『Rosa: A Horse Drama』（1994年）、『Writing to Vermeer』（1998年）などで共同作業を行いました。近作には女声とアンサンブルのための『La Passione』（2000年 - 2002年）があります。

彼の楽譜はオランダのDonemusやイギリスのブージー・アンド・ホークスから出版されており、作品の録音はノンサッチ・レコードから多くリリースされています。

アンサンブル活動と教育者として

アンドリーセンは、自身の音楽を演奏するためのインストゥルメンタル・グループ「De Volharding」や「Hoketus」の設立に中心的な役割を果たしました。これらのグループは、それぞれの名と同じタイトルの代表作を演奏しています。さらに、シェーンベルク・アンサンブルやアスコ・アンサンブルといった現代音楽アンサンブルの設立にも重要な貢献をしています。

教育者としては、アリソン・キャメロン、グレアム・キーニー、スティーヴ・マートランド、イェ・シャオガンなど、国際的に活躍する多くの作曲家を育て上げました。彼の教育は、単に技術を伝えるだけでなく、独自の音楽言語を探求することの重要性を説くものでした。

ルイ・アンドリーセンは、伝統に縛られることなく、常に新しい音楽表現を追求し続けた作曲家です。その独特なスタイルと、後進育成、アンサンブル活動への貢献は、現代音楽の歴史において重要な足跡を残しています。

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