ルキウス・ウァレリウス・フラックス (紀元前86年の補充執政官)

ルキウス・ウァレリウス・フラックス：共和政ローマの政治家・軍人

ルキウス・ウァレリウス・フラックス（紀元前85年没）は、紀元前2世紀後期から紀元前1世紀初期にかけての共和政ローマで活躍した人物です。彼はウァレリウス氏族という名門貴族の出身で、紀元前86年には補充執政官（スフェクト・コンスル）を務めました。

名門ウァレリウス氏族の出自

フラックスは、ローマで最も著名なパトリキ（貴族）の一つであるウァレリウス氏族の出身です。ウァレリウス氏族は、サビニ族を祖とし、王政ローマ時代にローマへ移住したと伝えられています。氏族からは、共和政ローマの設立者の一人であり、初代執政官であるプブリウス・ウァレリウス・プブリコラを輩出するなど、数々の要人を輩出してきました。

特に、フラックス家は紀元前3世紀中盤から紀元前1世紀中盤にかけて繁栄し、6代に渡って執政官を輩出しています。フラックスの祖父ルキウスは紀元前152年の執政官、曾祖父ルキウスは紀元前195年の執政官であり、紀元前184年にはマルクス・ポルキウス・カト・ケンソリウスと共に監察官を務めました。

政治家としての道のり

フラックスに関する最初の記録は紀元前99年のもので、当時彼はアエディリス・クルリス（上級按察官）を務めていました。しかし、護民官ガイウス・アップレイウス・デキアヌスによって告訴されます。告訴の理由は不明ですが、選挙違反の可能性が指摘されています。裁判の結果は不明ですが、その後の経歴から無罪であったと考えられています。

その後、紀元前93年頃にプラエトル（法務官）に就任し、紀元前92年にはアシア属州総督を務めました。総督時代には、アシア属州の都市から敬意を表され、競技会を開催するためにお金を集められたという逸話が残っています。

補充執政官として

紀元前87年頃、フラックスはルキウス・コルネリウス・スッラと内戦を繰り広げていたマリウス派に加担し、オスティア・アンティカを攻撃・占領します。紀元前86年1月、執政官であったガイウス・マリウスが死去すると、もう一人の執政官ルキウス・コルネリウス・キンナによって、フラックスが補充執政官に任命されました。

執政官として、フラックスは負債を緩和するための法律を制定しました。この法律は、借金の1/4を銀貨ではなく銅貨で支払うことで完済とみなすというもので、賛否両論がありましたが、当時の深刻な経済問題を解決する一助となったと評価されています。

東方遠征と悲劇的な最期

紀元前86年、キンナはフラックスに2個軍団を与え、バルカン半島へ派遣します。公式にはミトリダテスとの戦いが目的でしたが、実際にはスッラとの対立が背景にあったとも考えられています。しかし、この遠征は失敗に終わります。

ギリシアへ渡る際に艦隊は損害を受け、上陸後にはスッラに寝返る兵士も現れました。フラックスはマケドニアを経てビュザンティオンへ向かい、小アジアに侵攻しますが、副司令官ガイウス・フラウィウス・フィンブリアとの間で対立が生じます。

フィンブリアはフラックスが戦利品を隠していると訴え兵士を扇動し、反乱を引き起こします。フラックスは反乱を鎮圧できず、ニコメディアへ逃亡しますが、最終的に捕らえられ殺害されます。彼の首は海に投げ込まれ、遺体は埋葬されることなく放置されたと伝えられています。

子孫

フラックスには同名の息子がおり、紀元前63年に法務官を務めています。

ルキウス・ウァレリウス・フラックスは、名門貴族の出身でありながら、政争と軍事遠征に翻弄された人物でした。彼の生涯は、共和政ローマ末期の混乱と権力闘争を象徴していると言えるでしょう。

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