ルキウス・コルネリウス・キンナ

ルキウス・コルネリウス・キンナ：共和政ローマ末期の風雲児

ルキウス・コルネリウス・キンナ（紀元前132年頃 - 紀元前84年）は、共和政ローマ末期に活躍した政務官であり、ガイウス・マリウスと共に「マリウス派（キンナ派）」として知られています。彼らは、ルキウス・コルネリウス・スッラ率いる閥族派（スッラ派）と激しい権力闘争を繰り広げ、紀元前80年代の内乱期にローマを支配しました。

生涯

早期のキャリア

キンナは、ウィッリウス法の規定から逆算すると、紀元前90年までにプラエトル（法務官）を務めていたと考えられています。また、同盟市戦争中の紀元前89年頃には、グナエウス・ポンペイウス・ストラボの下でレガトゥス（副官）として従軍し、メテッルス・ピウスと共にマルシ族に対する勝利に貢献した記録が残っています。

最初の執政官就任と追放

紀元前87年、キンナは執政官に選出されました。当時、スッラは第一次ミトリダテス戦争のためローマを離れていましたが、民衆の反発を恐れ、キンナに自身の政策を継続させることを誓約させていました。しかし、キンナは就任後すぐに護民官を通じてスッラを告発し、スッラの不在中に自身の勢力拡大を図ります。

同盟市戦争の結果、ポー川以南の自由民全てにローマ市民権が付与されましたが、彼らをどのトリブス（選挙区）に登録するかという問題が未解決でした。キンナは、新市民を全35トリブスに登録する法案を提出し、これが同僚執政官グナエウス・オクタウィウスとの対立を招きました。さらに、マリウスを亡命から呼び戻す法案を可決させたことで、キンナを支持する新市民とオクタウィウスを支持する旧市民との間で大規模な衝突が発生。オクタウィウスは軍を動員してこれを鎮圧し、キンナはローマから追放されました。元老院はキンナを解任し、補充執政官としてルキウス・コルネリウス・メルラが選出されました。

ローマへの進軍と復権

追放されたキンナは、アッピアノスによると、各地で支持勢力を結集し、クィントゥス・セルトリウスらを味方に付けました。また、カプア駐屯軍の前で元老院の違法性を訴え、兵士たちの支持を獲得。同盟市を回り、トリブス登録問題で解任されたことを訴え、支援を集めました。一方、オクタウィウスはストラボを呼び戻し、ローマの防衛を固めます。

リウィウスの記録によれば、キンナはノラを包囲していた軍を買収し、マリウスを北アフリカから呼び戻してローマへ進軍を開始しました。マリウス・キンナ軍はローマを包囲し、周辺の植民市を次々と陥落させました。元老院は虐殺を行わないことを条件に降伏を申し出、キンナはローマ市民の安全を約束しました。しかし、ローマ入城後、オクタウィウスを殺害し、ロストラに晒しました。マリウスとキンナはローマを略奪し、反対派を粛清。そして、選挙を経ずに翌年の執政官に就任しました。

その後の執政官職と最期

キンナはその後も執政官を続けましたが、紀元前86年にマリウスが死去。紀元前84年、キンナはスッラ攻撃を決意し、兵士たちを無理やり出陣させようとしましたが、兵士たちに殺害されました。

評価

歴史家テオドール・モムゼンは、キンナを「低俗で利己的かつ政治的な信念に欠ける人物」と評価しています。しかし近年、キンナの政治手腕を再評価する学者も現れており、イタリア統一におけるカエサルやアウグストゥスの先駆者と見なす考え方もあります。

新市民のトリブス登録問題

キンナがローマを支配していた紀元前86年には国勢調査が行われました。この調査で、各市民は資産の場所によってトリブスに登録され、資産額によって階級が決定されました。同盟市戦争の結果として生じた新市民のトリブス登録問題は、紀元前87年または紀元前84年に解決したと考えられており、キンナはこの問題に真剣に取り組んでいたと言えるでしょう。

家族

キンナの娘コルネリアは、ガイウス・ユリウス・カエサルの妻となり、カエサル唯一の公式な実子であるユリアを産んでいます。

キンナは、その政治手腕と激動の時代背景から、共和政ローマ末期を代表する人物の一人として、歴史に名を刻んでいます。

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