ルドラ

ルドラ：インド神話の暴風神

ルドラ（Rudra）は、インド神話において重要な位置を占める暴風神です。その名前はサンスクリット語の語根「rud（泣く、吠える）」に由来し、「咆哮を上げる者」「叫ぶ者」といった意味を持ちます。仏典においては、嚕捺羅、嚕拏羅、魯捺羅などの漢字で音写されています。

ヴェーダにおけるルドラ

『リグ・ヴェーダ』には、ルドラに捧げられた独立した讃歌が3篇存在し、一部がソーマに捧げられた讃歌や、ソーマと共有する讃歌も存在します。これらの讃歌を通して、古代インドの人々がルドラに抱いていた畏敬の念や、その神格に対する理解を垣間見ることができます。

姿と性格

ルドラは、赤褐色の肉体を持ち、黄金の装身具を身に着け、弓矢を持つ姿で描かれます。「ヴァジュラを持つ者」とも呼ばれ、その力強さを象徴しています。

風水害をもたらす荒ぶる神であると同時に、慈雨をもたらし、大地に豊穣をもたらすモンスーンの神格化としても捉えられていました。人々はその怒りを恐れる一方で、聡明さと優しさを兼ね備えた神として、健康や安寧を保障する存在として崇拝しました。医薬を司る神としても信仰を集めていたようです。

牝牛プリシュニーとの間に、暴風雨の神々であるマルト神群と呼ばれる息子たちがいます。

また、『リグ・ヴェーダ』においてはアスラ（Asura）とも呼ばれており、アスラ神族が悪魔とされる以前の時代の名残をとどめています。

シヴァ神との関係

『リグ・ヴェーダ』において、ルドラに対する形容詞として「シヴァ」（吉祥な、の意味）が一度だけ見られます。時代が下るにつれて、古ウパニシャッドにおいてルドラは形容詞のシヴァを添えられるようになり、シヴァ神と深く関連付けられるようになりました。プラーナ文献の一つである『シヴァ・プラーナ』には、シヴァが「私の化身であるルドラ」と語る表現すら見られます。ヒンドゥー教においては、ルドラは完全にシヴァと同一視され、シヴァの前身であるとされています。

ルドラは「弓の射手」（サンスクリット：Śarva）と呼ばれ、矢はルドラに不可欠な属性です。この呼び名はシヴァ・サハスラナーマ（シヴァの千の名前）にも登場し、後世の言語ではシヴァの名前の一つとして用いられることが多くなりました。

後期ヴェーダ文献には、ルドラが悪魔の城塞をたった一本の矢で破壊する説話が残されています。この説話は、ヒンドゥー教神話の時代になるとシヴァのものとなり、「トリプラースラ」の物語として知られています。

ゾロアスター教におけるルドラ

興味深いことに、ルドラはゾロアスター教においてはダエーワ（悪魔）とされています。ダエーワの一人であるサルワ (Saurva) は、ルドラの別名であるŚarvaに対応しています。このように、異なる宗教において神と悪魔という対照的な位置づけを与えられている点は、ルドラという神格の複雑さを示唆しています。

まとめ

ルドラは、古代インドの自然観や宗教観を反映した、多面的な性格を持つ神です。暴風雨の脅威と恵み、畏怖と慈悲、破壊と創造といった、相反する要素を内包するルドラは、人々に畏敬の念を抱かせ、多様な神話や伝説を生み出してきました。シヴァ神との関係や、ゾロアスター教における位置づけなど、様々な視点からルドラを考察することで、古代インドの精神文化への理解を深めることができるでしょう。

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